コラム

「中国に対抗できるのはトランプだけ」の勘違い――バイデンの戦略とは

2020年11月09日(月)10時59分

中国は冷戦時代から途上国を足場としてきた。1971年に中国が台湾に代わって「中国政府」として国連代表権を手に入れた時も、途上国の支持が決定的だった。中国が政治的な意味でも途上国を重視することは、現代でも基本的に変わらない。

そのうえ、現代は冷戦時代より途上国の囲い込みが難しい。冷戦時代は、縄張りがいったん確定すれば、東西両陣営がそれぞれ住み分けできた。これと異なり、現代は自由貿易のもと、全ての国との取引が基本的に可能だ。

そのため、アメリカに近い国と思って油断していると、あっという間に中国の影響が浸透することもある。パキスタン、フィリピン、ケニア、エジプトなど、そんな例はいくらもある。

途上国軽視のツケ

だからこそ、中国包囲網の形成では途上国が重要になるわけだが、トランプ政権がその取り込みに成功してきたとはいえない。

トランプ政権のもと、アメリカの途上国向け援助はトータルでやや増えたが、アラブの友好国向けを除くと、他の地域向けのものは横ばいか減少した。最貧困地帯のアフリカ向けはいったん増加したものの、2018年には減少に転じている。

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とりわけ、コロナ禍に直面して自国のことに手一杯になったアメリカが途上国への支援を控えたのに対して、中国が「マスク外交」を積極的に展開したことは記憶に新しい。

要するに、国際的な陣取り合戦において、トランプは中国のリードをむしろ許してきたとさえいえる。

だとすると、バイデンが途上国、特に明白な親米国でない国への支援を増やしても不思議ではない。実際、バイデン陣営は大統領選挙の最中から「援助を外交の柱の一つにする」と表明してきた。

まず当面、想定されるのは、いわばアメリカ版「マスク外交」の強化だ。その場合、日本やヨーロッパの同盟国に途上国援助を増やすよう協力を求めてくることも想定される。

貧困国にも「対等」を求めることが「偉大さ」か

その最前線の一つになるとみられるのが、貧困国が多く、中国の進出が目立つアフリカだ。トランプ政権が中国に許したリードをリカバリーすることは簡単ではない。

トランプ政権は中国や日本だけでなく、アフリカの貧困国に対してもアメリカ製品に対する関税引き下げを求めてきた。貧困国を相手にしても「アメリカ第一」を求めることが、「アメリカの偉大さ」を示すものだったかは疑問だ。

そのうえ、トランプはアメリカと個別の自由貿易協定を結ぶよう強要するなかで、アフリカ内のモノのやり取りを自由化する自由貿易協定を突き崩そうとしてきた。これは長年かかって貿易圏を作ろうとしてきたアフリカにとって、歓迎できない話だ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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