コラム

「チーム地球」の一員としての日本の5つの優先課題──SDGs週間に考える

2020年09月23日(水)17時35分

これに加えて気になるのは、格差の大きさを表すパルマ比率(上位10%が得ている所得の下位40%の所得に対する比率)がこの2年連続で「重要な課題」と評価されたことだ。日本の数値は1.3だが、この水準はアメリカ(1.76)やイギリス(1.52)を下回るものの、先進国のなかでは格差が大きい部類に入る。

コロナのダメージは立場の弱い非正規雇用などでとりわけ大きいため、日本で今後、貧困と格差がさらに悪化する可能性は大きい。

先進国最低レベルのジェンダー平等

次に、ジェンダー平等だ。SDGsレポートでは、3年連続で「議会における女性議員の割合」や「性別賃金格差」が「重要な課題」と評価されている。

このうち、女性議員の割合は10%前後にとどまっており、これは先進国中最下位レベルであるばかりか、ほとんどの途上国と比べても低い水準にある。

これに対して、フルタイム労働者および自営業者のなかでの男女間の賃金格差は24.5%(2020)。これは先進国のなかでも屈指の高水準で、SDGsランキングの首位常連であるスウェーデンと比べると約3倍も大きい。

Mutsuji200923_5.jpg

(出所)Sustainable Development Goals ウェブサイト. 先進国中、オレンジ線は日本、青線はスウェーデンを表す。

政府や企業は女性の参画をことあるごとに強調するが、その道のりは遠い。

化石燃料の大量消費

第3に、エネルギーを大量に消費するライフスタイルだ。

SDGsレポートによると、日本に関する評価では、「エネルギー浪費」や「一人当たりCO2排出量」が3年連続で「重要な課題」としてあげられている。とりわけ、日本の一人当たりCO2排出量8.8トンに関していうと、これより上位にくるのは中東などの産油国がほとんどというほど多い。

日本の自動車や家電はエネルギー効率の良さで知られるが、消費の総量が多ければ、いくら効率が良くても追いつかない。

しかも、その多くは石油や天然ガスといった化石燃料で、再生は不可能だ。日本の「再生可能エネルギーの占める割合」もまた3年連続で「重要な課題」と評価されている。

日本ではCO2排出などにかかる税金などが安く、これが欧米と比べて風力や地熱など再生可能エネルギーの利用や、ガソリン車に比べて温暖化に負荷の小さい電気自動車への転換が進んでいないことの一因といえるだろう。

陸と海の生物多様性

第4に、生態系の保全についてである。SDGsレポートでは、日本の「過剰に捕獲された魚介類の割合」は70.8%(2020)で、先進国中屈指のレベルであり、3年連続で「重要な課題」と評価されている。

海に囲まれた我が国では、海の恵みを享受することに慣れ親しみすぎて、それが有限であることへの意識がかえって薄いのかもしれない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、政府閉鎖中も政策判断可能 代替データ活用=

ワールド

米政府閉鎖の影響「想定より深刻」、再開後は速やかに

ビジネス

英中銀の12月利下げを予想、主要金融機関 利下げな

ビジネス

FRB、利下げは慎重に進める必要 中立金利に接近=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が語る「助かった人たちの行動」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story