コラム

アメリカで突如浮上した「イランとアルカイダの連携」説は本当か

2019年07月19日(金)17時02分

国連総会に出席し、NYで記者会見をするロウハニ大統領(2018年9月26日) Brendan Mcdermid-REUTERS


・アメリカ政府高官は「イランとアルカイダの連携」を主張し、「イランの脅威」を強調している

・しかし、その多くの根拠は20年以上前のイランとアルカイダの限定的な関係にあり、事実の誇張が目立つ

・これは一種の陰謀論とも呼べるもので、イランへの軍事行動を正当化するためのものとみられる

アメリカとイランの緊張が高まるなか、アメリカ政府高官は「国際テロ組織アルカイダがイランとつながっている」としきりに強調する。しかし、この主張は控えめに評しても事実の誇張で、悪く言えば国ぐるみの陰謀論とさえいえる

「イランがアルカイダとつながっている」

6月19日、ポンペオ国務長官は連邦議会で「イランが長年アルカイダとつながってきた」と主張。1998年にケニアとタンザニアにあるアメリカ大使館をアルカイダが相次いで爆破した事件で、イランが工作員の輸送などで支援したことなどをあげ、「イランの脅威」を力説した。

これと並行して、トランプ政権支持が鮮明なアメリカのFOXニュースや、トランプ政権と緊密で反イランが鮮明なサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などは「イランとアルカイダの連携」を相次いで報じている。

例えばUAE政府系メディア、アル・アラビヤはイランの元将軍の証言として「1990年代のボスニア内戦の際、イラン革命防衛隊は現地イスラーム勢力を支援し、アルカイダにも訓練を行った」と報じた。当然、イランはこれを否定している。

宗派を超えた共闘?

もしこの説が正しいとすると、イランとアルカイダは宗派を超えて協力していることになる。イランはシーア派の中心地だが、アルカイダはスンニ派に属するからだ。

一般的に宗派を超えた協力はないと思われがちだが、アメリカ政府やサウジ、UAEは実利的な利益や共通の敵がある場合、宗派の違いは絶対のものではないと主張する。

この点において異論はない。

例えば、シリア内戦をめぐり、イランはトルコとの協力を深めてきたが、トルコの多数派はスンニ派だ。また、これまでイランは各地のシーア派組織(レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など)だけでなく、スンニ派組織(パレスチナのハマスやエジプトのムスリム同胞団など)も必要に応じて支援してきた。

つまり、宗派を超えた連携は珍しくなく、逆に同じ宗派だから協力するとも限らない(サウジは宿敵イランと関係の深いカタールと2017年6月に断交したが、サウジとカタールはいずれもスンニ派)。そのため、アメリカという共通の敵を前にイランとアルカイダが将来において連携する可能性はゼロとはいえない。

接触イコール連携とはいえない

ただし、少なくとも現状において、イランとアルカイダが連携する公算は限りなく小さい。

米誌タイムのインタビューに応じた国務省元高官は、イランとアルカイダの接点に関する情報は以前から得ていたと明かしたうえで、「両者が協力してアメリカを攻撃することはほぼ想定できない」と述べている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数は5000件減、減少幅は予想

ビジネス

EU首脳、米中との競争にらみ対策協議 競争力維持へ

ビジネス

トランプ政権、対中テック規制を棚上げ 米中首脳会談

ビジネス

仏サノフィ、ハドソンCEOを解任 後任に独メルクの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story