コラム

アメリカで突如浮上した「イランとアルカイダの連携」説は本当か

2019年07月19日(金)17時02分

実際、ポンペオ氏やアル・アラビヤが強調しているのは20年以上も前の、しかも限定的な協力で、仮にそれらが真実でも、「だからその後もイランとアルカイダは一貫して、しかも全面的に連携している」という証明にはならない。

もし過去のある一時点の協力をもって「今も連携している」といえるなら、アメリカもアルカイダと通じていることになる。1980年代のアフガニスタンでソ連軍と戦うイスラーム義勇兵にアメリカは武器支援を行い、彼らが後にアルカイダを発足させたからだ。

とすると、ポンペオ長官らの主張は事実の誇張とみてよい

むしろ、イラン革命防衛隊はシリア内戦でアルカイダやイスラーム国(IS)とも衝突した。また、イランが支援するレバノンのヒズボラやパレスチナのハマスも、アルカイダ系組織としばしば交戦している。

なぜ「ウソ」をつくか

先述のタイムのインタビューに応じた国務省元高官によると、ポンペオ長官が就任した頃から国務省内で「イランとアルカイダの連携」が語られるようになったという。

なぜ、トランプ政権は根拠の疑わしい言説を振りまくのか。それはイラン攻撃の法的根拠を得るためとみられる。

北朝鮮と異なり、イランにはアメリカ本土を射程に収める弾道ミサイルがないため、アメリカにとって直接の脅威ではない。そのイランを攻撃するには、「本土防衛のための海外での軍事活動」を議会に認めさせる必要がある。

アメリカ以上に反イラン的なサウジアラビアやUAEは、こうしたアメリカ国内の事情に便乗して「イランとアルカイダの連携」を叫んでいるわけだが、その背景にはこれらスンニ派諸国こそ、自国でのテロを控えさせるため、アルカイダを支援していると長年みられてきたことがある。

実際、2001年同時多発テロ事件で唯一生き残った実行犯ザカリアス・ムサウィは裁判で「サウジ王室から支援を受けていた」と証言した。最近では、アルカイダやISは南アジアへの進出を強めているが、これに関してインドの情報機関はサウジやUAEの関与を示唆している。

とすると、サウジやUAEはこうした経歴を覆い隠し、全ての責任をイランになすりつけようとしているとみてよい。「イランとアルカイダの連携」はイランを悪役に仕立てるためのプロパガンダ、陰謀論とさえ呼べるかもしれない。

陰謀論に付き合うか

アメリカは2003年のイラク侵攻で、誤った情報を根拠に「イラクの大量破壊兵器がテロリストの手に渡る危険がある」と主張し、一方的な攻撃に踏み切った「前科」がある。

そのイラク侵攻でアメリカが国際的な信頼を失墜させた時でさえ、日本はこれを支持し、戦闘任務こそつかなかった(つけなかった)ものの、物資補給のため自衛隊をイラクに派遣した。

今回のイランの場合、参議院選挙中ということもあってか岩屋防衛相はアメリカ主導の有志連合への参加はないと断言している。

しかし、参院選の結果にかかわらず、選挙後に「状況が変わった」などの理由で自衛隊を(戦闘任務でなくとも)派遣することがあれば、アメリカ主導の陰謀論に加担したと言われかねないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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