コラム

ドイツ新右翼「第二次世界大戦は終わっていない」──陰謀論を信じる心理の生まれ方

2018年08月20日(月)20時30分

状況の理解による安心感

一つずつみていこう。まず、「現実を理解し、確実性を高める欲求」。

世の中や自分の生活が不安定になった時、現実を柔軟に受け入れることが難しければ、「なぜこうなったのか」を理解することは、精神的安定の第一歩になる。

その際、状況の変動が大きく、予測不能であるほど、そして多くの原因が複雑に絡まっているほど、個別の理由を検討するより、なんらかのストーリーに沿って、全体を単純化して理解しようとしやすくなる。

先述の2人の場合、自分の経済的困窮の原因を、ドイツの財政状況、EUの金融政策、国際情勢の変化など複雑な要素から理解するより、「ドイツがアメリカあるいはユダヤ人に牛耳られているから」と理解した方が、明快であったかもしれない。

ただし、単純化されたストーリーの完成を優先させると、精神的安定のために、都合の悪い事実や考え方は無視されやすくなる。例えば、経済的に行き詰まった時に自分の不手際や無作為を反省することは、原因に関する思考を複雑にするため、大きなストレスになる。

こうしてみたとき、ダグラス博士らはそこまで明言していないが、困難な状況に直面した時に現実と折り合いをつけることが苦手な人、一つ一つ事実を積み上げた着実な思考が苦手な人、「自分の責任」と向き合うことが苦手な人ほど陰謀論に傾きやすいとも考えられる。

干渉されないことによる安全

次に、「自分の問題を自分で処理することで安全性を高める欲求」。これはつまり、外部との接触を制限することで、自分以外からの悪影響を避けようとする欲求だ。

一般的に人間は、自分の命運が自分の手の中にある時に安心感を覚え、それを他人に委ねる時に不安を覚えやすい。自分の才覚や技量に自信のある者ほど、その傾向は強い。運転に自信のある人ほど、他人が運転する車に同乗した時に落ち着かなくなる。

ダグラス博士らによると、自分に関する決定権が自分にあるのか不安を抱きやすい者、これに関する無力感の強い者に、陰謀論に傾きやすい傾向があるという。自分が不利な状況に立たされることへの警戒感が、「悪意ある他者」の影響から逃れようとする欲求を強めるというのだ。

だとすると、対人不信が強い者、自信と無力感が同居する者ほど、陰謀論者になりやすいといえる。先述の2人の「帝国の市民」は、それぞれ多少なりとも自分の才覚や能力に自信があったとみられるが、いずれも思うようにいかず、経済的に行き詰まるなか、社会から隔絶した「自分の国」を作り出した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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