コラム

ドイツ新右翼「第二次世界大戦は終わっていない」──陰謀論を信じる心理の生まれ方

2018年08月20日(月)20時30分

2016年3月、当局はフィツェック氏を逮捕。容疑は独自の銀行を設立し、約600人の「国民」から100万ユーロ(約1億2600万円)以上を横領したことだった。「国民」は四散し、2017年3月に裁判所はフィツェック被告に4年間の懲役を命じた。

客観的にみれば詐欺にすぎないが、多くの人々を巻き込んだ手腕からは、フィツェック氏がプロデューサーとしてそれなりの才覚をもつことがうかがえる。しかし、ドイツメディアによると、その経歴には挫折が目立つ。

2018年段階で51歳のフィツェック氏は調理師を皮切りにスポーツインストラクターやタトゥースタジオ経営者などを転々とした後、ザクセン・アンハルト州で市長選挙に立候補。しかし、わずか0.7パーセントの得票で惨敗し、民主主義に幻滅して「帝国の市民」に傾倒するなか、「王国」建国に至った。

美男子の転落

もう一人の代表的「帝国の市民」アドリアン・ウルサチェ氏も、多少なりとも社会で評価される才能をもつ(少なくともその自信がある)者が、挫折を契機に、陰謀論者になった点でフィツェック氏と共通する。

ウルサチェ氏は、やはり東部ザクセン・アンハルト州の自宅を独立国家「ウル」と宣言し、2016年8月に家宅捜索に入ろうとした警官に銃を発砲。殺人未遂で逮捕された。

現在44歳のウルサチェ氏は、1998年に「ミスター・ドイツ」コンテストで優勝。モデルとして活動するなか、「ミス・ドイツ」受賞歴のある女性と結婚し、2人の子どもをもうけた。しかし、その後、起業するものの事業に行き詰まり、数十万ユーロの借金を負うなかで「帝国の市民」に傾倒したとみられる。

なぜ陰謀論を信じるか

これら2人の「帝国の市民」に典型的に表れているように、実生活での挫折と陰謀論には密接な関係があるとみられる。

アメリカ心理学会の権威ある雑誌『心理学の新動向』に2017年12月に掲載されたイギリス人心理学者カレン・ダグラス博士らの論文は、陰謀論に傾く人の心理状態を、大きく以下の3つに整理する。

1  現実を理解し、確実性を高める欲求

2  自分の問題を自分で処理することで安全性を高める欲求

3  自己イメージをよくする欲求

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ産石油のインド売却に向け積極交渉=駐

ビジネス

再送(18日付配信記事)-米大手テック企業の債券発

ワールド

焦点:国際貿易支配へ、「トランプ後」にらむ中国の戦

ビジネス

英1月小売売上高、前年比+4.5% 22年2月以来
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由...「落葉帰根」派も「落地生根」派も
  • 3
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 6
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 7
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 8
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 9
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 10
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 8
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story