コラム

アフリカの子どもに銃を取らせる世界(2)中国「一帯一路」の光と影──南スーダン

2018年03月02日(金)17時00分

ところが、独立からわずか2年後の2013年末、サルヴァ・キール大統領がリエク・マシャール副大統領を解任したことをきっかけに、南スーダンでは内戦が勃発。この対立は、キール氏の出身民族ディンカ人とマシャール氏の出身民族ヌエル人の政府内での勢力争いに端を発したものでした。その結果、キール氏を支持する南スーダン軍やディンカ系民兵組織と、マシャール氏を支持するヌエル人の戦闘に発展したのです。

戦闘のなか、敵に畏怖の念を植え付けるため、あるいは「戦利品」を獲得するため、レイプや略奪、虐殺などが頻発。その多くは南スーダン軍やディンカ系民兵によるものとみられ、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2016年3月、「南スーダン政府が『報酬』として民兵に略奪や殺戮を認めている」と非難し、組織的な蛮行に警鐘を鳴らしました。

これに拍車をかけたのが、戦闘が長引くなか、それぞれの民族が自衛や援助物資の強奪などさまざまな目的で武装し始めたことです。もともと「国民」としての一体性が乏しいなかで発生した内戦は、南スーダンという国家の存在そのものがフィクションに過ぎない状況を浮き彫りにしたといえます。そして、この誰も統制できない混乱は、子ども兵の徴用を加速させてきたのです。

内戦長期化の一因は中国

このような特有の事情に加えて、南スーダン内戦は国際的な要因によっても悪化してきました。とりわけ、中国の進出は南スーダン内戦を長期化させる大きな要因となってきました

南スーダン内戦に対して、国連安保理は2016年12月、同国への武器の禁輸を提案。これは欧米7ヵ国の支持を集めたものの、8ヵ国が欠席したことで決議そのものが成立しませんでした。この8ヵ国にはアンゴラやセネガルなどアフリカの国の他、日本、ロシア、そして中国が含まれます。

南スーダンでは、戦車など大型の兵器を用いているのは南スーダン軍だけで、それ以外の勢力が用いているのは、ほぼ自動小銃などの小型武器だけ。つまり、この武器禁輸提案は、とりわけ蛮行の目立つ南スーダン政府・軍を念頭に置いたものでした。そのため、南スーダン政府との関係を重視する各国は棄権したのですが、それによって南スーダンへの武器流入を減らすことは困難になり、内戦の長期化が促されたといえます。

その意味で日本も責任は免れませんが、この決議に棄権した国のなかでも中国は、とりわけキール大統領率いる南スーダン政府の後ろ盾といえる存在です。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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