コラム

アフリカの子どもに銃を取らせる世界(2)中国「一帯一路」の光と影──南スーダン

2018年03月02日(金)17時00分

南スーダンで解放された元子ども兵(2018年2月7日)Denis Dumo-REUTERS

2月7日、南スーダンで87人の女の子を含む311人の子ども兵が解放されました。これほどの規模の解放は、同国で初めてのことです。しかし、内戦が長期化する南スーダンでは子ども兵の社会復帰が困難であるばかりでなく、その後も子ども兵の徴用が報告されています。

mutsuji20180227182001.jpg

2013年暮れに始まった南スーダンの内戦では、世界食糧計画(WFP)によると既に300万人以上が土地を追われています。さらに、戦闘の長期化は食糧不足をも併発させており、2017年6月に食糧農業機関(FAO)は全人口の半分にあたる600万人が飢餓に直面するという見通しを発表しています。

国民生活を根こそぎ破壊する内戦は、この国の豊富な石油によって支えられています。そして、そこには中国の影が見え隠れします

「子ども1000人に3人が兵士」の国

UNICEFによると、南スーダンでは1万7000人以上の子ども兵が活動しているとみられます。このなかには、南スーダン軍やこれに近い民兵組織に徴用された子どもも含まれ、今回解放されたのは政府系組織で戦闘に参加していた子ども兵がほとんどでした

子ども兵の解放そのものは歓迎すべきでも、その母数の大きさからみると、動員が解除されたのはごく一部にとどまります。2017年7月、ある政府系組織の10歳の子ども兵は米国のテレビ局USA Todayの取材に対して、「どっちにつくにしても、ここでは男の子は皆兵士なんだ」と証言しています。

「男の子が全員兵士」というのはやや誇張であるとしても、南スーダンで子ども兵の割合が高いことは確かです。世界銀行の統計によると、2016年段階で南スーダンの全人口は1223万人で、そのうち15歳未満の人口は41.9パーセントを占め、約512万4000人。先述の1万7000人はこの0.33パーセントに当たり、子ども1000人に3人は戦闘に従事している計算になります。

前回紹介したコンゴ民主共和国で軍事活動に関わる子どもは約3万人で、世界で最も子ども兵の数が多い国の一つですが、同じ計算で産出した子ども全体に占める子ども兵の割合は0.08パーセント。1万人に8人の割合です。数の多寡は惨状を測る一つの目安に過ぎませんが、ともあれ南スーダンにおける子ども兵の割合の高さは、この国の将来にとって壊滅的な打撃を与えるものといえます。

「世界で最も若い国」の悲劇

全土を巻き込む南スーダン内戦は、この国の歴史が凝縮したものといえます。南スーダンは2011年にスーダンから独立した、「世界で最も若い国」。旧スーダンでは北部のアラブ系ムスリムによって支配されることに南部のアフリカ系キリスト教徒が抵抗し、30年以上にわたる内戦を経て、南部は独立したのです。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザの学校に空爆、火災で避難民が犠牲 小児病院にミ

ワールド

ウクライナ和平交渉、参加国の隔たり縮める必要=ロシ

ビジネス

英総合PMI、4月速報48.2 貿易戦争で50割れ

ビジネス

円債は償還多く残高減も「買い目線」、長期・超長期債
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 4
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 8
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story