コラム

「楽園」モルディブの騒乱―中国、インド、サウジの「インド洋三国志」と小国の「産みの苦しみ」

2018年02月16日(金)13時50分

そのため、ヤーミン大統領は5日、最高裁に命令の撤回を要求。その後、15日間の非常事態が宣言され、最高裁判事らが逮捕された他、ガユーム元大統領も自宅で拘束されるなど、混乱が広がったのです。

「楽園」を目指す中国

こうしてみたとき、モルディブの騒乱は、制度的な民主化が多様な政治活動を生み、これを封じるためにかえって政府が強権化した結果、生み出されたものといえます。革命後のフランスにナポレオンが登場したように、民主化が力による支配を生む現象は、しばしばみられるものです。ただし、モルディブの場合、外国の影響が対立をより深刻化させてきました

もともとモルディブは、英国の植民地時代、スリランカの総督府が間接的に支配していました。そのため、1965年の独立後もインドやスリランカと深い関係を維持。30年にわたる支配を築いたガユーム元大統領は、インドとの協力に基づき、その座を保ちました。

mutsuji180216.jpg

しかし、中国がインド洋への進出を強めるなか、その「一帯一路」構想のルート上に位置するモルディブは、中国にとって海上交通の要衝として重要度を増していったのです。

その結果、ヤーミン政権との友好関係に基づき、中国は2014年9月に合意された、2億ドルを投じた「中国・モルディブ友好橋」の建設をはじめとするインフラ協力を加速。これと並行して、自由貿易協定(FTA)の締結による貿易・投資も活発化してきました。さらに、2013年の段階で、年間120万人にのぼる観光客のうち中国人は33万人にのぼりました。

反中感情の芽

ただし、中国の急速な進出が膨大な資金流入をもたらし、結果的にその国の政府要人の汚職を加速させがちなことは、多くの国でみられることです。モルディブでもヤーミン政権にはもともと汚職の噂が絶えませんでしたが、中国の進出はその汚職体質を強化したとみられます

モルディブ・インデペンデント紙によると、中国とモルディブの両政府の協議で決定された、「中国・モルディブ友好橋」を含む橋脚建設に関わる中国企業のなかには、フィリピンの道路改修工事などで詐欺行為を働いたとして世界銀行のブラックリストに掲載されているCCCC Second Harbor Engineering社も含まれています。報道を受け、ヤーミン政権は企業選定が「透明で公正なもの」と強調しましたが、これは中国だけでなく政府に対する反感をも招き、それが結果的に政府ををさらに強権化させる一因になったといえるでしょう。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 8
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story