コラム

「貧困をなくすために」宇宙進出を加速させるアフリカ 「技術で社会は変えられる」か

2017年12月31日(日)13時30分

実際、2000年代の資源ブーム以来、その経済成長が注目を集めるようになったとはいえ、アフリカはいまだに世界の最貧地帯です。世界銀行の統計によると、サハラ以南アフリカ平均で41.0パーセント(2013)の人口が1日1.9ドル以下の生活水準にあり、15歳以上の女性のHIV感染率は58.7パーセント(2016)と地域別で断トツで高く、相次ぐ内戦などによって難民数は約600万人(2016)にのぼります(World Bank, World Development Indicators Database)。

これまでに人工衛星を打ち上げた国は、他のほとんどのアフリカ諸国より経済水準などで高いとはいえ、それでも人工衛星打ち上げには批判もあります。例えば、南アフリカでは約770万ドルをかけて製造した人工衛星サンバンディラサット打ち上げの際、議会では野党議員から「その資金をもっとよい使い道に回せたはず」と批判があがりました。この種の議論は人工衛星以外にも、例えば高速鉄道の敷設などでもみられます。

これに拍車をかけているのは、国によって差はあるものの、2014年に資源価格が下落した後、アフリカ諸国の多くで経済成長にかげりが見え始めていることです。やはり世界銀行の統計によると、アフリカ平均で2000年から2013年まで平均4.8パーセントあったGDP成長率は、2016年には2.9パーセントにまで下落。今回、アンゴサット1を打ち上げたアンゴラはサハラ以南アフリカで第2の産油国ですが、2016年の成長率はゼロにまで落ち込んでいます。

【参考記事】「資源価格の下落」と「米国の金利引き上げ」がアフリカ経済にもつインパクト

投資としての宇宙進出

ただし、その一方で、人工衛星の打ち上げには「投資」の側面もあります。昨今のアフリカではしばしば、「貧困など社会問題を解決するための手段」として人工衛星の必要性が強調されています。

例えば、アフリカでは携帯電話の普及が加速しており、これは単に通信手段の普及だけでなく、その他の産業に大きな波及効果を及ぼすことを意味します。例えば、ケニアで生まれた携帯電話を通じた送金サービスM-Pesaは、銀行口座をもてない貧困層にとって重要な金融サービスとして普及しており、同種の事業はルワンダなど近隣諸国でも生まれています。この環境のもと、通信環境の整備は不可欠の課題で、そのためにも人工衛星の需要は大きいといえます。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀の12月利下げを予想、主要金融機関 利下げな

ビジネス

FRB、利下げは慎重に進める必要 中立金利に接近=

ワールド

フィリピン成長率、第3四半期+4.0%で4年半ぶり

ビジネス

ECB担保評価、気候リスクでの格下げはまれ=ブログ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 10
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story