コラム

シリコンバレーバンク経営破綻は金融危機につながるか

2023年03月22日(水)16時02分

3月10日に米国のシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻が伝わり、米欧の金融市場の景色は大きく変わった...... REUTERS/Dado Ruvic/

<米国の株式市場では、預金流出に弱い中堅銀行が、シリコンバレーバンク(SVB)と同様に破綻する懸念がくすぶっている。最近の米欧の銀行不安と当局の対応について考えたい。>

3月10日に米国のシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻が伝わり、この前日から米欧の金融市場の景色は大きく変わった。直後の週末12日には、米政府・財務省などが例外措置として、破綻銀行の預金全額保護などの緊急対応を行った。

その後、他の中小銀行にも預金流出が及ぶとの懸念がくすぶり、米国の株式市場では中小銀行の大幅下落が続いた。弱点がある銀行が売りターゲットになるとの思惑が、スイス大手銀行のクレディスイスにも波及して同行の株価が急落。そして、スイス政府と中銀による強権が発動されて、19日にはUBS銀行がクレディスイス銀行を救済合併するに至った。

リーマンショック時と似ていること、異なること

銀行の信用リスク分析は筆者の専門外ではあるのだが、最近の米欧の銀行不安と当局の対応について以下で考えたい。大規模銀行の経営が行き詰まる点では、2008年に起きたリーマンショック時の混乱と似ている。特に、クレディスイスは世界の金融システムへの影響が大きく、その意味で、同銀行が経営が無秩序な破綻となれば、リーマンブラザーズと同様の大きなショックを引き起こす可能性があった。

2008年にリーマンブラザーズは金融市場からの圧力に晒された中で、米政府の救済策は実現に至らず経営破綻に至った。その後、米政府の対応への疑念から、どの銀行が破綻するか分からないという疑心暗鬼が広がり、金融市場では資金流動性が干上がり経済活動も大規模な縮小に至った。当時の金融危機は、2009年3月に米政府による大手銀行の資本への政府資金の投入が実現して、米政府が金融システムを守る政策対応が実現するまで収まらず、経済活動にも甚大な影響が及んだ。

前回の金融危機が教訓になっているのだろう、米国政府などから強い要請があったとされるが、スイス政府は、UBS銀行との合併によって金融システムを保つ決断を早々に行ったとみられる。突然決まった大規模な銀行合併だったため、損失負担の扱いなどを巡り、今回の合併が実現するまでまだ紆余曲折があるかもしれない。ただ、大手銀行を破綻させ、金融システム機能を麻痺させる対応が回避されたという意味では、世界的な金融恐慌が起きた2008年と現在は異なる。

米国では、クレディスイスの様な大手銀行の問題は起きていないが、先述したがある程度の資産規模を持つ中堅銀行の経営が行き詰まった。そして、SVBの破綻は、保有するリスク資産の大きな目減りというよりも、コロナ後に増えた預金が流出に転じ、安全資産とみなされた国債などの資産の含み損が、資本を毀損させた事で起きたと位置付けられる。

一方、リーマンショック時は、住宅価格の下落によって価格が大きく下落した証券化商品を保有していたことで、多くの銀行のバランスシートが痛んでいた。現時点では住宅価格などの資産価格下落が限られる事などから、当時の様には、金融機関全体に損失を及ぼす資産の目減りが起きていないとみられる。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story