コラム

カタルーニャ州首相の信任投票が延期された本当の理由

2018年02月07日(水)19時55分

morimoto180207-3.jpg

Photograph by Toru Morimoto

そんな中、独立宣言を朗読して拘束され、翌日に釈放された当時のカタルーニャ州議会議長は「自由に発言ができる人が議長になるべきだ」として、議長再任を拒否したことから、現議長トゥレンが選出された。出頭命令がなく、釈放中でもない彼は、「自由な発言ができる」からだ。

今回トゥレンは、「信任投票を延期するが、中止ではなく、プッチダモンが首相候補であることに違いはない」「カタルーニャの議会で選出された人がカタルーニャの首相になるのであって、600キロ離れた(マドリードの)法廷が決めるのではない」と38歳の若い議員らしい歯に衣着せぬ発言で、中央政府を果敢に牽制した。

「帰国ミッション」に失敗したのが理由?

とはいえ、多くのカタルーニャ議員が、スペイン政府の法的圧力に萎縮していることは間違いない。

トゥレンが所属するカタルーニャ共和主義左翼(ERC)の党首で、元カタルーニャ政府副首相ウリオル・ジュンケラスは、独立宣言以来投獄されたままだ。ERCのナンバー2で、2月19日に法廷への出頭を命じられているマルタ・ルビラは「州首相就任は、これ以上逮捕者が出ず、就任の有効性が保証される(10月の独立宣言のように即時取り消しにならない)という条件下で行われるべきだ」と、信任投票延期後にコメントしている。

しかし、トゥレンや議員らが逮捕を恐れたことだけが、延期の本当の理由だとは考えづらい。なぜなら、プッチダモンが首相候補である限り、スペイン中央政府が、ルビラの言う「保証」を与えるはずがないのは自明のことだからだ。延期決定を信任投票当日の朝まで待つ必要もなかった。

信任投票延期の本当の理由は、プッチダモンが「帰国ミッション」に失敗したからではないかと私は考えている。スペイン警察の目をかいくぐり、彼がカタルーニャに戻っていれば、おそらく就任投票は強行されていただろう。

プッチダモンは、国外のどこかで行く手を阻まれたのか、カタルーニャには入ったものの議事堂まで辿りつかなかったのか。それとも「亡命先」ブリュッセルに足止めされて全く動けなかったのか。それは計り知れない。

しかし、30日の朝までに議会への出席をトゥレンに確約できなければ、信任投票を延期するという密約が 2人の間で結ばれていたのではないかと、私は推測している。

独立派が肩を落としていたその夜、「事件」が起きた。

スペインの民放テレビが、「亡命中」の元閣僚アントニ・クミンにプッチダモンが送ったメッセージをスクープした。プッチダモンはその中で、信任投票の延期によって自分の首相就任が事実上なくなったと述べて、「モンクロア(スペイン首相官邸)の勝利」「カタルーニャ共和国の最後の日々」と綴っていた。

ベルギーのある会議に出ていたクミンが、プッチダモンからのメッセージが表示されているスマートフォンを、上向きにしたままテーブルの上に置きっぱなしにしていたところ、プッチダモンをこき下ろすことで知られるスペインの民放番組のカメラマンが、後ろの席に潜んでいて盗撮したものだという。

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

HSBC、第3四半期に引当金11億ドル計上へ マド

ビジネス

日本国債の大規模入れ替え計画せず、金利上昇で含み損

ビジネス

米FRB議長人事、年内に決定する可能性=トランプ大

ビジネス

塩野義、26年3月期純利益予想を小幅上方修正 コス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story