コラム

冷酷で優しい『永い言い訳』は女性監督の強さ故か

2020年11月20日(金)11時10分

要するに破調と乱調。これが随所にちりばめられている。その帰結として、登場人物への安易な感情移入を西川は拒絶する。共感したくなるとはぐらかされるのだ(だからこそ違和感を持つ人は少なくないと思う)。人はあくどいと同時に切ない。冷酷なのに優しい。相反する要素がきしみながら絡み合って物語を紡ぐ。

子供への演出の秀逸さは、師匠である是枝裕和譲りなのだろうか。最後に軽薄なタイアップ曲を使って余韻をぶち壊す作品は多いが、抑制しながら細部までしっかりと作り込まれた音楽も見事だ。頑固なのに繊細。あらゆる破綻や二律背反を身のうちに抱え込む西川は、とても強い女性なのだろう。......いや、そもそも女性が強いのか。

NW_MCM_02.jpg『永い言い訳』(2016年)
©2016「永い言い訳」製作委員会
監督/西川美和
出演/本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季

<本誌2020年11月24日号掲載>

20210126issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

1月26日号(1月19日発売)は「バイデンvs中国」特集。貿易戦争、ウイグル、テクノロジー覇権……「バイデン新政権は中国に弱腰」は本当か。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

ニュース速報

ワールド

米ホワイトハウスの「友人」を歓迎、新政権と協力へ=

ワールド

英、コロナ死者10万人に迫る 当局者「病院は戦場の

ワールド

米ファイザー、欧州で訴訟直面も ワクチン供給の遅れ

ワールド

バイデン氏就任式、異例の厳戒警備 首都中心部ほぼ無

MAGAZINE

特集:バイデン vs 中国

2021年1月26日号(1/19発売)

トランプよりむしろ手ごわい相手? 新・米大統領が習近平の強敵になる可能性

人気ランキング

  • 1

    新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?

  • 2

    マジックマッシュルームを静脈注射した男性が多臓器不全、血液中でキノコが育っていた

  • 3

    アイルランド母子施設で子供9000人死亡、発覚したきっかけは...

  • 4

    無邪気だったアメリカ人はトランプの暴挙を予想でき…

  • 5

    七五三にしか見えない日本の成人式を嘆く

  • 6

    トランプのSNSアカウント停止に、アメリカ国内で異論…

  • 7

    「再選を阻止せよ」浜田宏一・安倍政権元内閣参与が…

  • 8

    米大統領就任式を前に州兵の戦闘用車両「ハンビー」…

  • 9

    入院できないコロナ自宅療養者が急増 重症化を察知…

  • 10

    議会突入の「戦犯」は誰なのか? トランプと一族、…

  • 1

    「小さな幽霊」不法出稼ぎタイ人、韓国で数百人が死亡 

  • 2

    新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?

  • 3

    脳に侵入する「殺人アメーバ」が地球温暖化により北上しているおそれ

  • 4

    マジックマッシュルームを静脈注射した男性が多臓器…

  • 5

    世界で「嫌われる国」中国が好きな国、嫌いな国は?

  • 6

    ビットコイン暴落、投資家は「全てを失う覚悟を」(…

  • 7

    アイルランド母子施設で子供9000人死亡、発覚したき…

  • 8

    北極の成層圏突然昇温により寒波襲来のおそれ......2…

  • 9

    無邪気だったアメリカ人はトランプの暴挙を予想でき…

  • 10

    米政権交代で「慰安婦合意」の再来を恐れる韓国

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

2021年 最新 証券会社ランキング 投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!