冷酷で優しい『永い言い訳』は女性監督の強さ故か

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<破調と乱調、これが随所にちりばめられている。相反する要素を絡み合わせて物語に紡ぎあげるのは、二律背反を身のうちに抱え込む西川美和ならでは>
今さら書くまでもないことだけど、映画は社会の空気や動きに対して敏感であらねばならない。当然だろう。社会のある断面を切り取り、そこにテーマやメッセージ、願いや思いを投射するのだ。社会と分離していては成り立たない。ところが映画監督という職業にフォーカスしたとき、社会の動向からとても遅れている要素があることに気が付いた。
ジェンダーだ。
もちろん、男女差別や女性の社会進出をテーマにした映画は少なくない。特に最近は増えている。問題は監督だ。圧倒的に男が多い。世界的にその傾向が強いけれど、特に日本映画において、この傾向は顕著だ。この連載でも、これまで女性監督の作品を取り上げたことはない。
実は今回、こんな書き出しにするつもりはなかった。でもふと気が付いた。例えば文芸や漫画など他の表現分野の担い手に比べ、映画監督は圧倒的に男性優位だ。理由は分からない。制作現場における監督を頂点とするヒエラルキーが、封建的な構造となじみやすいのか。誰か教えてほしい。
ただし今回は、意識的に女性監督の作品を選んだわけではない。原稿を書こうとして、そういえば初めての女性監督だと気が付いた。つまり選んだ理由は純粋に作品。連載が決まったときから、西川美和はいつか書かねば、と思っていた1人だ。
『蛇イチゴ』と『ゆれる』にはとにかく圧倒された。『ディア・ドクター』も脚本の妙に驚かされた。今回取り上げるのは最新作『永い言い訳』。これまでの全ての作品と同様、西川は監督だけでなく脚本も務める。
やはり改めて実感するのは、ディテールの描写だ。とにかく繊細。立ち上がった幼い女の子が駆け寄ろうとして布団につまずく(あれが演出ならすごい)。カップヌードルを喉に詰まらせた陽一(竹原ピストル)が咳き込むタイミングの絶妙さ。なぜ学芸員の鏑木を吃音(きつおん)という設定にしたのだろう。微細な要素が複雑に絡み合い、壮大なゴシック建築のように映画として屹立(きつりつ)してゆく。
ただし西川は物語を壊す。主人公の衣笠(本木雅弘)は相当に下劣で自分本位な男だ。テレビドキュメンタリーの被写体になることを承諾したときは、僕は観ながら「受けるのかよ」と思わずつぶやいた。ストーリーテリングの定石としては、絶対に拒絶する場面だ。ラストの出版(ネタバレになるから詳しくは書けないが)にも、「結局は書いたのかよ」と吐息をつきたくなった。
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