コラム

企業不祥事がなくならない理由は「ダブルバインド・コミュニケーション」

2018年10月05日(金)10時30分

昨年11月、国交省に報告書を提出した日産の西川廣人社長 Toru Hanai-REUTERS

<忖度さえ生んでしまう「double bind」のコミュニケーションが、相次ぐ不祥事の背景にある。不祥事を防ぐには、人事制度の変革が必要だ>

筆者は人間心理への理解を強みとして、経営コンサルや組織人事コンサルを行っている。その立場からすると、企業の不祥事が立て続けに発覚することが気になってならない。つい先日も、電線大手のフジクラが社長会見を開き、品質不正を謝罪した。他にも免震ゴム性能評価不正を行った東洋ゴムを筆頭に、神戸製鋼所、三菱マテリアル、東レ、日産自動車、SUBARU(スバル)など、名だたる企業が並ぶ。

特に気になるのは、例えば日産のようなケース。昨年の不正発覚時には社長が直接カメラの前に現れて謝罪したが、その後も社内では引き続き不正が行われていたのだ。社長の謝罪会見をテレビで見ていない社員などいないだろう。それにもかかわらず、不正が続いていたのである。

日産に不正を防ぐ「制度」は存在したのか

ご存知のとおり今年7月、日産の新たな不祥事が世間を賑わせた。燃費・排ガス試験で測定する際の条件を満たしていないにもかかわらず、試験を有効としたりデータを書き換えたりしていたという内容だ。

「新たな」不祥事と紹介したとおり、日産は昨年9月、国土交通省の立ち入り検査を受け、国内工場で無資格者が完成検査を行っていたことが発覚。10月には、西川廣人(さいかわ・ひろと)社長が謝罪会見を開いた。国交省は今年3月、日産本社に対し、問題を把握していながら各工場に適切な指示をしていなかったことなどを改めて指摘し、2度目の業務改善指示処分を与えている。

これだけの不祥事を起こし、社長が会見の場で「襟を正す」と誓ったにもかかわらず、今年に入っても検査工程での不正を続けていたというのだ。

日産ともあろう企業が、なぜ、このような事態を引き起こす状況に陥ってしまったのだろう。トップが公の場で「襟を正す」と誓い、社内的には不正の根絶を厳命すれば、社員は即座に不正に手を染めることをやめるはずだ。

さらに、コンプライアンスに背くような行為を役員や従業員がした場合、減給や降格、懲戒解雇といった厳罰が下るような就業規則や社内ルールがあったか、もしくは不正が発覚した後に間髪入れずそうした規則を追加していれば、再度の不正は防げたはずだと普通は考える。

しかし、日産は「普通」ではなかったのだ。最初の不正発覚時に、罰則を適用していたのか。そもそも、厳罰が下るよう就業規則やルールを改定していたのか。9月26日に発表した「完成検査における不適切な取扱いへの対応等についてのご報告」(日産自動車作成)でも、そのあたりは明確にはされておらず疑問が残る。

「襟を正す」と号令を掛けた後に不正を続けていても、経営側は罰を与えるまでではないと考えたのか、それとも、現場では罰が分かっていても、不正を続けざるをえない何かがあったのだろうか。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カナダ、10月雇用が予想外に増加 トランプ関税に苦

ワールド

米国務長官と会談の用意ある、核心的条件は放棄せず=

ワールド

ハンガリー首相、トランプ氏と「金融の盾」で合意 経

ワールド

ハマス、イスラエル軍兵士1人の遺体返還 2014年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 10
    「豊尻」施術を無資格で行っていた「お尻レディ」に1…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story