コラム

「転職で賃金増」の減少を、キャリアコンサルタントとして歓迎する理由

2019年02月08日(金)17時00分

kieferpix-iStock.

<活況を呈している転職市場に、ついに変化が現れた。転職で賃金が1割以上増えた転職者の比率が減ったのだ。今こそ、「もっと大切なもの」を重視した転職活動が必要だ>

ここ数年、転職市場や新卒の採用市場は活況だ。人材紹介会社大手のジェイエイシーリクルートメントは、2018年の連結業績予想で対前年比40%以上の売上増を見込んでいる。

そんな中、「『転職で賃金増えた』前年割れ 活況市場に転機か」という見出しの記事が、1月29日付の日経新聞朝刊に載った。活況な転職マーケットにも、ついに世界経済の雲行きの影響が現れ始めたのだろうか。その記事のデータの出所は、人材会社大手のリクルートキャリアである。

転職で「1割以上給与が増えた」、ついに低下

リクルートキャリアは、転職支援サービス「リクルートエージェント」における「転職時の賃金変動状況」を公表している。具体的には、「前職と比べ賃金が明確に(1割以上)増加した転職決定者数の割合」の経年変化を観察し、四半期ごとに公表しているのだ。

その数値、昨年10-12月四半期の結果が29.8%と、前年同時期から0.5ポイント低下し、久し振りに30%を割ったのである。

一時的な現象なのか、将来を見越した経営者の判断が反映され始めたのかはまだ確定できないが、この現象はむしろ歓迎したい。これを機に誰もが転職へと浮足立たず、冷静な選択をするようになることを願っている。

最初にお伝えしておくが、筆者の会社も厚生労働省より有料職業紹介事業の許可を得ているので、転職市場については実情が分かる立場にいる。

また、企業へ紹介するためのキャリア面談ではなく、有料でのキャリアコンサルティングとして相談に来る方もおられるので、より本音が分かるのだ。

転職にも有用なセカンドオピニオン

そうした人たちがキャリアコンサルタンティングを依頼するのは、人材会社から言われることをどこまで信じていいのか不安だからだ。第三者として客観的に自分の人生のために相談に乗ってほしいという想いからだ。

医療の世界に例えると、主治医とは別に、専門知識のある医師にセカンドオピニオンを求めるようなニュアンスだ。当然、我々はプロのキャリアコンサルタントとして、その人の人生においてどんな選択が良いかを、じっくり話し合う。だからこそ、転職の動機や選択基準の本音が聞ける。

そんな中で、ここ数年、筆者がとても気になっていることがあった。

それは、時流も手伝って、給与をアップさせたり役職を上げたりするために転職を考える人が少なくないということだ。もちろん、その動機が間違っているとは思っていない。自分の力をさらに評価してくれる会社があれば、そこを選ぶのは自然なことだ。

また、採用する側も、人材の獲得競争なので、より高い年収や魅力的な役職を提示するのは仕方のないことだ。

しかし、転職する側も、採用する側も、意思決定するうえでもっと大切なものがあるのに、給与を含めた処遇や条件に目がいきがちな風潮を憂いていたのだ。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story