コラム

自転車シェアリング、バブル破裂後の着地点

2019年07月26日(金)11時00分

シェア自転車バブルの崩壊で、壊れて路上に放り出されたままになったofo社の自転車(北京郊外) Jason Lee-REUTERS

<新四大発明の一つとも言われ、社会現象となった自転車シェアリング。バブルは崩壊しても市民の足としての使い勝手の良さは変わらず、コミュニティー規模で生き残っていきそうだ>

中国の各都市で2016年に登場し、2017年に大きなブームとなった自転車シェアリングは都市の景観と人々の生活を一変させた。その状況は2017年9月13日付の本コラムで報告した。しかし、2018年に入ると明らかに自転車シェアリングは退潮に入り、バブル崩壊の様相を見せ始めた。

2017年前半には自転車シェアリングに70社が参入して激しい競争となり、そのなかで利用料金が30分1元(16円)だったのが0.5元(8円)に下がった。こんなに安くてどうやって事業が成り立つのか、当時から疑問が消えなかった。関係者の間で流れていた噂として、利用者が登録するときに預けるデポジット(99~299元)を業者が運用して収益を上げるのだとか、自転車の利用状況のビッグデータが価値を生むのだという説があった。

幻に終わった収益モデル

しかしデポジットを運用するという道は政府の規制強化によってふさがれた。デポジットを返金しないまま連絡不能になってしまう業者が相次いだことから、政府が2017年8月に自転車シェアリングの適正化に関する指針を出したのである。そのなかで業者に対してデポジットをなるべく取らないこと、取るとしても利用後に速やかに返金するよう勧告した。ビッグデータに価値があるという説も幻想にすぎなかった。

より現実的なシナリオは、激しい競争のなかで最後は2,3社を残すぐらいまで寡占化が進み、そうなったあかつきには価格を引き上げて投資の回収に入る、というものだった。トップ2社のofoとモバイクはおそらくそうした戦略のもとで他社を圧倒しようとやみくもに自転車を中国全土にばらまき続けた。その数はofoが海外も含めて1000万台、モバイクが710万台というとてつもない量であった。ofoにはライドシェア大手の滴滴、モバイクにはテンセントなど中国内外のネット企業やベンチャーキャピタルが10億ドル以上も投資したので、利益がでなくてもどんどん自転車を増やすことが可能だったのである。

しかし、量で圧倒すれば中小事業者を淘汰できるという狙いも外れた。淘汰される業者もいたが、新規参入する業者もいた。例えば、北京でコンビニチェーンを運営する便利蜂は2017年5月に自転車シェアリングに参入した。その時点ですでに北京の路上にはシェア自転車があふれていたが、コンビニの宣伝になるとして参入したのである。中小事業者を淘汰できるとの見込みが外れた理由は、自転車シェアリングで働く「規模の経済性」についての見立てを誤ったことである。

シェア自転車を利用する立場からすると、乗りたいニーズがあるときに周りを見回したら必ず目に入るぐらいいっぱい自転車を配置している業者が最も便利だろうと考える。従って、乗りたいニーズが発生しそうな場所に自転車を並べて置けるだけの規模がある業者が勝つに違いない。その意味でこの産業には規模の経済性がある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落後切り返す、FOMC受け荒い

ビジネス

10月米利下げ観測強まる、金利先物市場 FOMC決

ビジネス

FRBが0.25%利下げ、6会合ぶり 雇用弱含みで

ビジネス

再送〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story