コラム

自転車シェアリングが中国で成功し、日本で失敗する理由

2017年09月13日(水)17時30分

英マンチェスターに進出したモバイクのシェア自転車。日本でも8月に札幌でサービスを開始した Phil Noble-REUTERS

<日本では「中国の自転車シェアリングが問題を起こした」ことしか報道されないが、実際には問題をはるかに上回る社会革命を起こしている。とくに日本の自転車シェアリングと比べればその利便性は雲泥の差だ。ぜひ中国に行って見てきてほしい>

2016年に登場したと思ったら、あっという間にすっかり中国の都市生活に浸透した自転車シェアリング。それがいま曲がり角を迎えている。シェア自転車は、町中ですぐに見つけることができ、好きなところに乗っていって、そこで乗り捨てればいい、という便利さで多くの利用者を引きつけてきた。だがその便利さの裏側では、膨大な数の自転車が路上に放置され、通行の邪魔になるばかりでなく、視覚障害者用の点字ブロックや消火栓への通路をふさぐなどの問題が起きている。

そうした問題が起きることは、このサービスが始まった時から予見できたと思うが、地方政府はしばらく表立った規制を行わず、様子を見てきた。儲かりそうだとなると次々と新しい企業が参入するのが中国の常。今年7月時点ですでに70社近くが参入し、激しい「自転車ばらまき合戦」を繰り広げて、全国の主要都市に配置された自転車は1600万台に上るという。

【関連記事】自転車シェアリング--放置か、法治か?

中国の都市に社会革命

そうした動きに、ついに地方政府の堪忍袋の緒が切れ、7月に杭州市がシェア自転車を新たにばらまくことを禁じたのを皮切りに、上海市、南京市、深セン市、鄭州市などが次々と新規投入の禁止令を出した。9月には北京市も新規の自転車投入を禁じたが、北京市ではすでに15社が自転車シェアリングのサービスを展開し、235万台もの自転車がばらまかれている。

8月には中央政府が「インターネットによるリース自転車の発展の奨励と適正化に関する指導意見」を公布して規制に乗り出した。上海では自転車シェアリングの業界団体が「サービス規範」を取り決め、10月1日から実施することにした。シェア自転車は3年使ったら廃車にするといった業界の自主ルールを定めるもので、今後他の都市にも展開されるという。シェア自転車の利用者の利用マナーも大きな問題になっており、深セン市では厳重な交通規則違反をしたシェア自転車のユーザーたちに対して罰金や一週間の乗車禁止といった処分を行っている。

ただ、もう少しお行儀よくする必要があるとはいえ、総じて言えば自転車シェアリングは中国の都市に社会革命といっていいほどの変化をもたらしており、そのメリットはデメリットを大きく上回っている。

自転車シェアリングの最大の貢献は、自動車の利用を減らしたことにある。このことを北京市の例で説明しよう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

ニュース速報

ワールド

ローマ教皇の手術は成功、回復後は活動に制限なし

ビジネス

ECB、高インフレ継続なら7月以降に追加利上げも=

ワールド

ダム破壊は「野蛮な」戦争犯罪、プーチン氏がウクライ

ビジネス

米貿易赤字、4月は23%増の746億ドル 約8年ぶ

MAGAZINE

特集:最新予測 米大統領選

2023年6月13日号(6/ 6発売)

トランプ、デサンティス、ペンス......名乗りを上げる共和党候補。超高齢の現職バイデンは2024年に勝てるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    「中で何かが動いてる」と母 耳の穴からまさかの生き物が這い出てくる瞬間

  • 2

    性行為の欧州選手権が開催決定...ライブ配信も予定...ネット震撼

  • 3

    ワグネルは撤収と見せかけてクーデーターの機会を狙っている──元ロシア軍情報部門将校 

  • 4

    自社株買いでストップ高!「日本株」の評価が変わり…

  • 5

    元米駆逐艦長が「心臓が止まるかと」思ったほど危機…

  • 6

    メーガン妃が「絶対に誰にも見られたくなかった写真…

  • 7

    「ダライ・ラマは小児性愛者」 中国が流した「偽情報…

  • 8

    プーチンは体の病気ではなく心の病気?──元警護官が…

  • 9

    マーサ・スチュワート、水着姿で表紙を飾ったことを…

  • 10

    ワグネルに代わってカディロフツィがロシアの主力に…

  • 1

    ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止できず...チャレンジャー2戦車があっさり突破する映像を公開

  • 2

    「中で何かが動いてる」と母 耳の穴からまさかの生き物が這い出てくる瞬間

  • 3

    「日本ネット企業の雄」だった楽天は、なぜここまで追い込まれた? 迫る「決断の日」

  • 4

    米軍、日本企業にTNT火薬の調達を打診 ウクライナ向…

  • 5

    「ダライ・ラマは小児性愛者」 中国が流した「偽情報…

  • 6

    敗訴ヘンリー王子、巨額「裁判費用」の悪夢...最大20…

  • 7

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 8

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎ…

  • 9

    どんぶりを余裕で覆う14本足の巨大甲殻類、台北のラ…

  • 10

    ウクライナ側からの越境攻撃を撃退「装甲車4台破壊、戦…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    世界がくぎづけとなった、アン王女の麗人ぶり

  • 3

    カミラ妃の王冠から特大ダイヤが外されたことに、「触れてほしくない」理由とは?

  • 4

    「ぼったくり」「家族を連れていけない」わずか1年半…

  • 5

    F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官

  • 6

    築130年の住宅に引っ越したTikToker夫婦、3つの「隠…

  • 7

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、…

  • 8

    「飼い主が許せない」「撮影せずに助けるべき...」巨…

  • 9

    預け荷物からヘビ22匹と1匹の...旅客、到着先の空港…

  • 10

    キャサリン妃が戴冠式で義理の母に捧げた「ささやか…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story