コラム

「人口減少」日本を救う戦略はこの2国に学べ!

2018年04月03日(火)12時04分

magSR180403-2.jpg

研究開発や起業に適した環境を実現したイスラエル RINA CASTELNUOVO-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

イスラエルの躍進の秘訣は、ハイテク技術に優れた国造りという「グランドデザイン」を描くと同時に、国のマネジメント体制として、ハイテク技術に特化した国家構造やシステムを構築し「実践」したことが指摘される。

イスラエルにはグーグル、アップル、マイクロソフト、インテルなど世界トップレベルのグローバル企業が多数進出して研究開発拠点を設けている。また同国は「第2のシリコンバレー」とも呼ばれ、ハイテク技術やスタートアップのエコシステム(ビジネスの生態系)を構築している。

実際、米スタートアップゲノム社による17年のスタートアップのエコシステム世界ランキングにおいて、イスラエルのテルアビブが世界第6位にランクされている。1位のシリコンバレーのほかニューヨークやロンドン、北京といった大都市に次ぐ評価を得ているのだ。

ガラパゴスに甘んじた日本

ではスイスとイスラエルの共通点から、日本が世界に影響を与えるようなイノベーションを起こし、国際競争力を高めていくポイントを考えてみたい。

1点目は、両国とも国家レベルでの問題や高い危機感をイノベーションの源泉に転じてきたことである。

スイスでは、例えば70年代に日本メーカーがクオーツ時計を実用化したことで時計産業が壊滅的な影響を受けたことを、現在でも「クオーツ・ショック」として国全体の教訓にしている。当時、機械式時計が主流だったスイスの時計産業は存続の危機を迎えた。だが、スウォッチが「低価格×ファッショナブル」というポジショニング戦略で息を吹き返し、その後、同国の名門ブランドであるオメガ、ロンジン、ラドーなどを続々と買収。グループ全体でのブランド戦略が功を奏し、世界一の時計メーカーとなった。現在の時計メーカーの売上高ランキングでは、1位スウォッチ・グループ、2位リシュモン・グループとスイス勢が上位を占めている。

離散と迫害という悲劇の歴史を持つイスラエルも同様だ。政治・宗教・信条等が異なる国々に囲まれた危機感をイノベーションの源泉としてきた。

その点、日本は少子高齢化や構造的な人手不足、都市化・過疎化で「社会問題の先進国」ともいえる。課題を好機と捉えれば、世界に先駆けてイノベーションを起こせる可能性もある。

2点目は、両国とも小国で国内市場だけではビジネスが成立しないことから、最初から世界を目指すしかないという過酷な環境の中で事業を展開してきたことだ。スイスでは国内市場の規模が小さいという難点に対して、スイスブランドという競争優位を最大限に生かし、初めから世界市場を視野に競争力を高めてきた。極めて不利な地理的環境に置かれたイスラエルでも、製造業よりもハイテク技術分野の開発という知識集約型産業に特化し、国内市場を超えて世界市場を目指してスタートすることで競争力を高めてきた。

日本は幸いにも人口が多く国内市場だけで事業が成立する環境だったため、最初から世界市場を目指すという企業は少なかった。それが「ガラパゴス」とも揶揄される状況を生んできた要因でもある。もっとも最近では、メルカリのように創業時からグローバルレベルでのメガテック企業を目指す企業も増えてきている。「最初から世界の舞台で勝負すること」を日本のデフォルト(初期設定)とすることを促進する産学官の取り組みが重要となろう。

最後に、あえてイスラエルと日本の最大の違いを指摘しておきたい。筆者が国費招聘プログラム団長としてイスラエルを視察して驚かされたのは、起業に何度か失敗した人のほうが投資家からのスタートアップ資金を集めやすい、という状況だった。失敗しても取り返しができる国、むしろ失敗経験を高く評価する国がイスラエルなのだ。

日本は現実的には「失敗すると取り返しがつかない国」であり、その慣習が、イノベーションを生み出すことやリスクを取ることを阻害している。失敗から学ぶことを真に評価する国に生まれ変われるかどうか、日本の真価が問われていると言えよう。


180410cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版4月3日発売号(2018年4月10日号)は「『人口減少』日本を救う 小国の知恵」特集。縮小ニッポンを救う手立てはあるのか? ノルウェー、イスラエル、スイス......人口が少なくても、豊かで幸福で国際競争力も高い「小さき実力国」から学べること。この記事は特集より>

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身も認める「大きな胸」解放にファン歓喜 哺乳瓶で際どいショットも
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story