コラム

アリババ「米中欧日に次ぐ経済圏を構築する」大戦略とは何か

2017年12月03日(日)07時56分

物流では「世界どこでも72時間以内に配達」目指す

アリババが構築しようとしているスマート物流ネットワークは、巨大そのものである。アリババグループは、大きくEC関連事業、金融事業、物流事業の3ブロックに分かれている。このうち物流事業を担うのが「菜鳥」という会社。ジャック・マー自身が会長を務めている。

創業は2013年とまだ浅いが、そこに投じられている資金はとてつもない額だ。富士通総研の金堅敏氏のレポートによれば、「投資額は、フェーズ1で1000億元、フェーズ2で2000億元を合わせて3000億元(約5兆円)に達すると見込まれ、5~8年かけて一日平均で300億元(年間で10兆元、約200兆円)のEC取引を支え、24時間配達可能な全国を張りめぐるスマートロジスティックスネットワークを構築しようとしている」(研究レポート「中国のネットビジネス革新と課題」)という。

そして現在、ジャック・マーのビジョンはさらにそれを超えるスケールに広がっている。「5年以内に中国の国内はどこでも24時間以内、世界どこでも72時間以内に配達できる」物流ネットワークを構築すると公言し、そのために菜鳥は、日本では日本通運と、米国では郵政公社と組むなど、国外の事業者との連携を着々と進めている。

こうした動きからは、アマゾンと比較してアリババが他のプレイヤーに対して友好的であることもわかるだろう。日本におけるアマゾン対ヤマト運輸の戦いに見るように、アマゾンは協力会社をどこか「業者扱い」するようなところがあるが、その点、アリババはビジネスパートナーとして尊重する態度を示しているようだ。世界どこでも72時間以内に配達できる」デリバリーを実現するポテンシャルを持っているのは、グローバルのビジネスパートナーたちと上手に協業できるアリババなのではないかと筆者は考えている。

アリババの世界進出を阻むものは?

もちろん、アリババの世界展開を阻むリスクにはさまざまなものがある。たとえば、上場企業と非上場企業がグループ内に混在していることから、コーポレートガバナンスの問題や、会計の質の問題、利益相反の可能性があること。

先進国の上場企業であれば、上場企業と非上場企業が数多く混在し、どのような事業をどの企業でやっているのかが不透明であることは許容されないだろう。今後アリババグループの企業が上場を実現していくにあたっては、グループ全体のコーポレートガバナンスに対する圧力が強まってくると考えられる。

以上を踏まえると、アリババグループの全容は不透明といわざるを得ない。ジャック・マー自身は「アマゾンはすべて自前でやろうとする帝国だが、アリババはプラットフォームだ」と主張しているが、帝国なのはむしろアリババではないか、という印象も与えかねない状況だ。

中国ブランドが先進国に通用するのか、という問題も未知数である。加えて、偽造商品の問題もある。とくにCtoCの「タオバオ」上ではコピー品や粗悪品などが売られていると指摘が相次ぎ、欧米の有名ブランドからは「売られている商品の8割が偽物」という強烈な批判も出た。

これを受け、アリババも対策を急いでいる。中国のアリババから世界のアリババへと飛躍するには、こうした悪評を改善して安全性を高め、顧客たちと信頼関係を築く必要があることは、アリババも理解しているのだろう。

ジャック・マー自身、米国通商代表部(USTR)からの批判に対し、「偽造品はアリババのガンである」と答え、当局と協力しつつビッグデータ等も活用しながら改善していくとしている。前述した、PwCらと構築しているブロックチェーンを活用した流通管理システムは、その突破口になり得るものといえるだろう。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平交渉が一時中断、イラン紛争勃発で=ロ

ビジネス

パリ控訴裁、SHEINのサイト停止求める仏政府の請

ビジネス

サウジの紅海側ヤンブー港、原油積載再開 製油所攻撃

ビジネス

アングル:植田日銀総裁、利上げ姿勢崩さず 4月会合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 3
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 10
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story