コラム

アリババ「米中欧日に次ぐ経済圏を構築する」大戦略とは何か

2017年12月03日(日)07時56分

いうまでもなくアリババにとっては、アプリは顧客にまつわるビッグデータを収集するためのチャネルでもある。購買履歴にモバイル決済情報、そしてアマゾンが包括的にはまだ手にしていないリアルタイムの位置情報まで収集しているのである。

その結果、アリババは、ビッグデータから個々人の「社会的信用度」を算出するサービスまで生み出している。これは「芝麻信用」というサービスで、個人の信用が可視化されるため、ポイントが高い人は、融資の審査や、お見合いサービスなど、各種のサービスで優遇される。いわばビッグデータによる人間の「格付け」をアリババは実現してしまったのである。

「身分特質(身分や信用の状況)」「履約能力(取引履行の履歴)」「信用歴史(クレジットヒストリー)」「人脈関係(交友関係)」「行為偏好(消費性向)」の5項目をもとに、総合スコアを算出して行われる個人版格付けである。公共料金の支払いを遅延したり、予約した配車アプリをキャンセルしたりすると点数が減額される。その一方で、点数が上がると携帯通話料後払いの許容や航空券の優先購入が可能になるなど、メリットも大きい。

さらには、ルクセンブルクなど欧州で従来中国人がビザを取得するのが困難だった国々のビザ取得にも同格付けの点数が活用されている。最近では地方政府との信用情報の連結も推進されてきている。

ブロックチェーンを使った流通管理システムの構築に着手

ブロックチェーンの取り組みも、アリババは急いでいる。筆者の見るところ、アリババが先進国に本格的に進出できるかどうかのカギはここにある。

ブロックチェーンといえば、仮想通貨ビットコインに使われていることで知られるが、今、これを一般的な金融取引やその他さまざまな分野の取引に活用しようという動きが盛んだ。ブロックチェーンの主な特徴は、同一のデータを分散して保持、共有すること、そしてチェーンのように過去のデータの後に新たなデータを重ねて記録できることにある。

この特徴を活かせば、食品の流通経路を追跡し、食品偽装を食い止められるということで、アリババはプライスウォーターハウスクーパース(PwC)と豪州企業とともに、ブロックチェーン流通管理システムの構築に着手している。

アリババグループの金融部門アント・フィナンシャルのエリック・ジンCEOは「ブロックチェーンを活用してアリババは世界に進出し、10年間で20億人の利用者獲得を目指す」と発言している。その背後には、今のままの「中国ブランド」の信用力では先進国に受け入れられるのは難しいという危機意識が見え隠れしている。そこは筆者も同感だ。

しかし裏を返せば、アリババの目論見通りに安心・安全な流通管理システムが構築できれば、さらには信頼性が高いブロックチェーンによる新たな決済システムを広めていくことができれば、一気に世界進出が進む可能性が高いともいえるのではないだろうか。

なお、現在は主に中国人インバウンド向けのアリペイは、来春には日本人向けサービスを始めると発表している。日本人向けの新たなサービスは中国の銀行に口座を持たなくても利用でき、日本国内外のアリペイ加盟店でアリババの決済サービスが使えるようになるのだ。

アリペイは来年にも米国に本格進出し、数百万店舗で利用可能になるとも報道されている。中国人旅行者のお金を取り込もうと、米国でも大手ホテルチェーン、大手小売りチェーン、グルメサイトなどが積極的にアリペイを導入しようと躍起になっている。2018年は、日本でも、さらには米国でもアリババの名が轟く年になるかもしれない。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀総裁、FRB独立「世界にとって重要」 保

ビジネス

企業の資金需要、1月は改善 利上げ決定も先行きに変

ビジネス

ロンドン、金融センター調査で6年連続世界トップ N

ワールド

グリーンランドの帰属巡りトランプ氏と協議せず=NA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている「とてつもなく巨大な」生物...その正体は?
  • 4
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 10
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story