コラム

インテルがイスラエルの「自動運転」企業を買収する理由

2017年04月11日(火)12時06分

車載画像認識チップ世界最大手モービルアイの競争優位

モービルアイは、1999年にイスラエルで設立された運転支援システム会社である。2014年にはニューヨーク証券取引所で株式上場を実現しており、イスラエルを代表するIT企業の1社に成長している。

現在の主力製品であるADAS(先進運転支援システム)用の車載画像認識チップであるEyeQは、既に自動車メーカー27社、合計1500万台に採用されている。車載画像認識チップの世界最大手であるモービルアイが誇っているのは、同チップの浸透と表裏一体で蓄積してきた膨大な走行ビッグデータである。創業の翌年である2000年から16年以上にわたって蓄積してきた走行データはあらゆる走行環境における6000万キロにも及ぶものであり、同社製品の信頼性を担保している。

この主力製品に加えて、モービルアイが自動運転の領域で注目されているのには主に以下の3点が指摘される。1つ目は、BMWとインテルとの3社にて、2021年までに自動運転車を量産する計画である。レベル4(レベルについては後述する)の自動運転を目指すものとしては最も有力で早期に量産化が計画されているものである。

2つ目は、米国デルファイ・オートモーティブと共同開発している「セントラル・センシング・ローカライゼーション・アンド・プランニング(CSLP)」と呼ばれるシステムである。単独では自動運転システムを開発することのできない自動車メーカーに対して同システムをベンダー連合として供給することを目論んでいる。

3つ目が、2016年にリリースされたマッピングソフトウェア「Road Experience Management(REM)」である。REMは、独自のEyeQファミリーの車載チップと連携して、低帯域幅のインターネット経由で道路およびランドマークの情報を収集するソフトで、これによりリアルタイムで地図マップ更新ができるようになるものだ。

完全自動運転の段階になると、地図データシステムにおいては、リアルタイムで地図データと実際の道路状況との相違点が一致されることが必要となる。モービルアイでは、REMに全ての自動車メーカーが参加し、走行データを集約させ、完全自動運転でのデファクトスタンダードにすることを目標に掲げている。

以上の通り、モービルアイは自動運転の領域において、もはや社名のような「目」に相当する部分だけを担う企業ではなく、自動運転のバリューチェーン全体を担うR&D企業へと成長している。この点こそがインテルによる今回の買収戦略を読み解く鍵であると言えよう。

3つの点から把握する自動運転技術の全体構造

自動運転技術は、カメラ、ミリ波レーダー、ライダーと呼ばれる超音波スキャナーがセンサーとなって、GPSと地図情報を重ね合わせて進むべき進路を自動で運転していく技術である。一般的に、現時点において2020年前後に実現が予想されているのは、自動運転の技術に関する世界的な非営利団体であるSAE(Society of Automotive Engineers)でレベル3と定義されている条件付き自動化である。このレベルは、自動運転では支障があったときにドライバーに対して余裕をもって運転を戻すことを前提としている。

【参考記事】死亡事故のテスラは自動運転車ではなかった

自動運転技術の全体構造は、図表1の通り、「認識・判断・制御プロセス」×「製品設計階層」×「SAE自動運転レベル」の3つから把握すると理解しやすい。

m_tanaka170411-chart1.gif

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、日米韓の軍事訓練けん制 対抗措置

ワールド

ネパール、暫定首相にカルキ元最高裁長官 来年3月総

ワールド

ルイジアナ州に州兵1000人派遣か、国防総省が計画

ワールド

中国軍、南シナ海巡りフィリピンけん制 日米比が合同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story