コラム

30歳、福島出身──第三者が広島で被爆体験を語る意義

2020年08月06日(木)10時50分

大河原さんと原爆ドーム COURTESY TOMOKO KUBOTA

<「私みたいな第三者を介してだからこそ、被爆者の想いが聞く人にすっと入っていくこともあるんじゃないかと思います」そんな大河原こころさんは、ある体験の当事者だった>

「昔から戦争をなくしたいという気持ちがあって、14歳で初めて広島に旅行して、平和の原点のような気がしました。ここで何かしたいと、26歳の時に移住してきました」

大河原こころさん(30)は、被爆者の体験や想いを伝える広島市の被爆体験伝承者養成事業に応募し、3年の研修を経て今年認定を受けた。今後は広島平和記念資料館などで、高齢化が進む被爆者に代わり被爆体験伝承講話を行う。

「もちろん当事者が伝えることは大切ですが、私みたいな第三者を介してだからこそ、被爆者の想いが聞く人にすっと入っていくこともあるんじゃないかと思います」

それは大河原さん自身が、ある体験の当事者として感じてきたことだった。

大河原さんは1990年に福島県田村市に生まれた。両親は有機栽培の農業を営み、自然豊かな山間で育った。しかし、東日本大震災によって生活は激変した。

「揺れが長かった。近くで女子高生たちが、ヤベー、チョー揺れてる、とかって笑っていたのが、徐々に悲鳴に変わっていきました。空は曇り、雪が降り、今日は世界が滅亡する日なんだ。死ぬんだなって思いました」

そして福島第一原発事故が起きる。

「震災から4日後、昼間に家族とコーヒーを飲んでいたら、R-DAN(放射線検知器)が鳴りだしたんです」

日常はいとも簡単に失われるのだと知った。そして、被爆者の苦悩を自分ごとに感じた。

「自分も放射線で子供が産めなくなるのかな、差別されるのかなって。不安でたまらなかったです」

しかし当事者の想いは、そうでない人には理解されにくかった。

「シンガーソングライターを目指してライブ活動をしていたのですが、福島出身と言うと、すぐに復興支援に結び付けられました。私の想いはあまり関係ないのかなって思った」

両親は農産物への風評被害を訴えたが、共感はなかなか得られなかった。

「怒りや恨みなどの感情がむき出しになると、経験していない人には受け入れにくいようでした」

【関連記事】特別寄稿:TBSアナ久保田智子「私の広島、私達のヒロシマ」

プロフィール

久保田智子

ジャーナリスト。広島・長崎や沖縄、アメリカをフィールドに、戦争の記憶について取材。2000年にTBSテレビに入社。アナウンサーとして「どうぶつ奇想天外!」「筑紫哲也のニュース23」「報道特集」などを担当。2013年からは報道局兼務となり、ニューヨーク特派員や政治部記者を経験。2017年にTBSテレビを退社後、アメリカ・コロンビア大学にてオーラスヒストリーを学び、2019年に修士号を取得。東京外国語大学欧米第一課程卒。横浜生まれ、広島育ち。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story