コラム

新年度に気をつけたい子どもの防犯対策 「サバンナの草食動物」から学ぶリスク・マネジメント

2024年04月03日(水)22時10分
シマウマの群れ

Wirestock Creators-Shutterstock

<小さな子どもをだまして連れ去る事件は、防犯ブザーには防げない。こうした犯罪を未然に防ぐために必要な考え方とは──>

いよいよ新年度が始まった。子どもの行動範囲が広がり、子どもの成長を実感できる季節だ。しかし他方、犯罪に巻き込まれないか心配になる季節でもある。にもかかわらず、保護者の多くは防犯ブザーを持たせること以外に対策を思いつかないのではないだろうか。もちろん、防犯ブザーは持たせないよりも持たせた方がいい。しかし、防犯ブザーには大きな限界がある。

警察庁の「子どもを対象とする略取誘拐事案の発生状況の概要」を用いて、小学生以下の連れ去り事案を推計すると、子どもの8割がだまされて自分からついていったという。確かに宮崎勤事件、サカキバラ事件、奈良女児誘拐殺害事件も、だまして連れ去ったケースだ。犯人にだまされてついていく子どもは防犯ブザーを鳴らさない。

では、子どもがだまされないためにはどうしたらいいか。そのヒントを与えてくれるのが動物たちだ。アフリカの大草原サバンナには、子どもに人気の動物が多く暮らしている。その行動をまねすれば犯罪に巻き込まれなくて済むのだ。

草食動物のサバイバルから学べる理由

もっとも、サバンナでは日々、草食動物の狩りが行われている。まさに「弱肉強食の法則」が支配する世界だ。しかし、草食動物は決して肉食動物のなすがままにはならない。実際、草食動物は「弱肉強食の世界」でも生き残っている。つまり、サバンナは「適者生存の法則」が支配する世界であり、強者が必ずしも適者とは限らないのだ。とすれば、「犯罪弱者」である子どもが草食動物のサバイバルから学ぶべきことは多いに違いない。

この分野の専門家であるガート・クレイワーゲンは、著書『ジャングルのリスク・マネジメント:アフリカの草原から学ぶ教訓』(未邦訳)で、すべての草食動物のサバイバルに共通する要素として「早期警戒」を挙げている。早期警戒が近づいてくる肉食動物の早期発見につながるからだ。

早期警戒する動物として最も有名なのはミーアキャットだ。その天敵はワシ、ヘビ、ジャッカルであるため、上空からの襲撃と地上での攻撃の双方を警戒しなければならない。そこで、ミーアキャットは四足歩行でせわしく動き回りながらもしきりに止まり、後ろ足だけで立ち、背伸びして周りを見渡す。

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早期警戒するミーアキャット 筆者撮影

早期警戒に適した特徴を備えているのがキリンだ。キリンの目は顔の側面についているので、広い範囲を見ることができる。休息するときはそれぞれのキリンが異なる方向を向くようにしている。

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早期警戒するキリン 筆者撮影

同様に、大型アンテロープであるクーズーも早期警戒に適した特徴を備えている。クーズーは胴体の色と柄が低木の幹枝とよく似ている。そのため、茂みに隠れるのが得意だ。しかし、そうしたカムフラージュの最中でも警戒を怠ることはない。大きな耳を回転式パラボラアンテナのように前後に動かす。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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