コラム

メーガン妃インタビューで英メディア界に激震 著名司会者とメディア団体幹部の辞任劇を辿る

2021年03月31日(水)18時50分

英国メディア約400社の編集幹部が加盟する編集者協会でも辞任劇があった。

編集者協会は8日、ウィンフリー氏の番組が英国で放送される数時間前に、王子夫妻が番組の中で大衆紙を「(人種差別的)偏見がある」と評したことへの反論声明を発表。「英国のメディアは偏見を持っていない」とし、王子夫妻に攻撃されても、権力者に説明責任を果たさせる役割は変わらないと記した。

また、夫妻が「英国のメディアが人種差別の一端を担っていると感じる」と語ったことに関し「偏見はない」、「夫妻が根拠を示さずこのような主張をしたことは受け入れられない」とするイアン・マレー事務局長のコメントを添えた。マレー氏はその後、複数の放送局に取材を受けた際も「偏見はない」と繰り返した。

この声明はすぐに業界内から反発を招く。BBC、チャンネル4などの放送局、ガーディアン、フィナンシャル・タイムズなどの新聞各紙で働く約240人のジャーナリストや編集者、学者らが9日、連名で公開書簡を出した。

「英新聞界に偏見は一切ないと言い切るのは滑稽だ。現状を否定している」、「編集者協会は人種差別的報道を抑止する方策について、オープンで建設的な議論を始めるべきだ」などと指摘した。

マレー氏は10日、辞任した。また、編集者協会のウェブサイトに掲載された声明には「意図を明確にするため」として次の文章が追加された。

「メディアの多様性と受容性を改善するために、やるべきことがたくさんある。声明への反応が引き起こした影響を顧みて、私たちの行動が問題解決の一部になるようにしたい」。

「多様性に欠ける、ニュースの編集室」

編集者協会は31日、優れたジャーナリズムを顕彰する「全英プレスアワード」のセレモニーをオンライン開催する予定だ。しかし、先の声明に反発したITVのニュース番組の司会者がセレモニーの進行役を辞退し、大衆紙デイリー・ミラーを含む複数の新聞が参加を取りやめている。

マレー氏に続き、編集者協会の理事の一人で、元サンデー・タイムズの編集幹部エレノア・ミルズさんも辞任した。協会のこれまでの声明文に「失望した」という。

ミルズさんの辞任表明文書は、英国の報道機関が多様性に欠けていることを指摘した。

昨年8月、ミルズさんは「ジャーナリズム界の女性たち」というテーマの会議で司会を務めた。この時紹介された調査によると、調査対象となった1週間の中で、1面に黒人記者による記事が掲載されていた新聞は1つもなかったという。

「英国の新聞は英国社会を真に反映していない。新聞編集の決定権を持つ人や原稿を書く人が人口構成を反映していないのであれば、新聞はゆがんだレンズのようなものだ」。

「英国の新聞社の編集室には慢性的に多様性が欠けている。有色人種の市民は編集上の決定権を持つ位置におらず、このため、メディア界には構造的な人種差別主義があると思う」。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

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