コラム

メーガン妃インタビューで英メディア界に激震 著名司会者とメディア団体幹部の辞任劇を辿る

2021年03月31日(水)18時50分
メーガン批判で人気のテレビ番組を降板したイギリスの有名司会者ピアース・モーガン

メーガン妃が語った差別や自殺を考えた話は信用できないと批判して人気のテレビ番組を降板したイギリスの有名司会者ピアース・モーガン(3月10日、ロンドンの自宅前で) Toby Melville-REUTERS

<メーガン批判で番組降板に追い込まれたテレビ司会者だけでなく、メディアにはメーガンの言うような「人種偏見はない」と言い切った業界幹部も現場の記者たちの反発で辞任した>

(3月23日発行の「新聞協会報」掲載の筆者コラムに加筆しました)

            ***

エリザベス英女王の孫ヘンリー王子とその妻メーガン妃が米人気司会者オプラ・ウィンフリー氏のインタビュー番組(米CBSで3月7日、英ITVで8日放送)の中で王室の内情を暴露し、英国内外に大きな波紋が広がった。

番組内で、メーガン妃は結婚後、自殺を考えるほど孤独を感じていたことや、長男アーチー君の妊娠中に王室内で「子供の肌がどれほど黒くなるかについて言及があった」ことなどを赤裸々に語った。

ヘンリー王子は米国移住について、英大衆紙の人種差別的な報道が「大きな理由だった」と明かした。大衆紙には偏見があり、有害な環境を生み出しているとも述べた。父チャールズ皇太子や兄ウイリアム王子との関係悪化も話題にした。

メーガン妃は元女優でアフリカ系の血を引く米国人。2018年に結婚した王子夫妻は昨年3月末に公務を引退した後、米国で暮らしている。

「なんてことをしてくれたんだ」

9日付の保守系メディアは、王子夫妻の行動を批判的に報道した。高級紙テレグラフのコラムニストは「女王に対する侮辱だ」と書き、大衆紙デイリー・メールは1面に「なんてことをしてくれたんだ」という大見出しを付けた。

ITVの朝の情報番組「グッド・モーニング・ブリテン」の人気司会者ピアーズ・モーガン氏は、メーガン妃を突き放した発言で視聴者の反感を買い、降板に追い込まれた。元大衆紙編集長のモーガン氏は歯に衣着せぬ論評で知られ、ツイッターのフォロワーは790万人を超える。

問題となったのは8日の放送。メーガン妃が自殺を考えるほど苦しんだと吐露した場面の後、モーガン氏は「メーガン妃の言うことは一言も信じない」と述べた。翌日の放送では、共同司会者の1人がモーガン氏のコメントを強く批判。モーガン氏が一時スタジオを出る一幕があった。

通信・放送業の監督機関オフコムには、9日夕方までに4万1千件以上の苦情が殺到した。オフコムはモーガン氏の発言が「危害・侮辱」を禁じる放送基準に違反するかどうか調査に乗り出した。

ITVは同日夜、モーガン氏の降板を発表。英国では近年、メンタルヘルスを大きな社会問題として捉える動きがある。メーガン妃の心の悩みを取るに足らないものとして一蹴したことが重くみられ、事態を急展開させたようだ。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

オーストリアの学校で銃乱射、10人死亡 容疑者の元

ワールド

トランプ氏、14日のワシントン軍事パレードで抗議活

ワールド

LA移民抗議デモへの軍隊派遣、推計費用1億3400

ビジネス

米ブラックストーン、欧州に今後10年で5000億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 10
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story