コラム

「右肩下がり」岸田政権の命運を左右する分岐点

2023年01月25日(水)18時00分

統一教会問題はプラス、防衛増税はマイナス

もう一つが、旧統一教会問題だ。自民党議員が昨年の参院選の最中に旧統一教会の施設を訪れていたことを認めたといった報道は続いており、また旧統一教会の集票を差配した実態があったのかという点などは未解明で、今後も続報が出てくる可能性はある。

しかし、文科省は1月18日、3回目となる質問権を行使し、韓国などへの海外送金の実態を含めた約80項目の質問を旧統一教会に突きつけた。回答期限は2月7日で、その後に「解散命令」を裁判所に請求すると見られている。

それを受けて、裁判所が旧統一教会に解散を命ずるとしても、当事者(旧統一教会及び請求所轄庁)の陳述を求めなければならないなど、宗教法人法と非訟事件訴訟法に基づく訴訟手続きが必要であり、相応の時間がかかる。しかし、政治的な効果という観点から考えると、いったん裁判所に解散命令が請求されるや、その後の国会質疑あるいは記者会見で詰問されても、「現在、裁判所に判断を頂いている最中ですので答弁は控えたい」という返しが一定程度、可能となる。

不当な勧誘による寄付を最長で10年間取り消すことなどを認めた被害者救済法も(罰則部分を除いて)1月5日に施行された。

いわゆる「宗教2世」の問題など、実効性のある救済策が十分になされているとは決して言い難い状況だが、兎にも角にも救済新法を成立・施行させ、その上で解散命令請求にこぎつけたとなれば、岸田政権にとって大きな好材料となるであろう。

反面、落とし穴になるとしたら、それは防衛増税だ。防衛費の対GDP比2%引き上げはトランプ政権時代からの検討事項であり、「国家安全保障戦略」などの防衛3文書改訂も従来から議論されてきた。今に始まった話ではない。防衛力を強化する必要性自体は、昨年2月に勃発したウクライナ戦争の衝撃により少なからぬ国民によって理解されているとも言える。

しかし、そうした一般的な理解と、財源確保の手法として増税を行うという具体的な議論の間には大きなギャップがある。むしろ円安、物価高が襲う中で最悪のタイミングだという声も挙がる。安倍政権下で導入された集団的自衛権行使容認(2014年)に続く、戦後安全保障政策の一大転換でもある。丁寧な議論と説明を怠り、打ち出す内容と態様を一つ誤るだけで、岸田政権は窮地に陥る可能性がある。

また、「鬼の居ぬ間に」ではないが、欧米歴訪という不在時に首相批判の声が党内から挙がったことも注目された。「派閥(宏池会)から離脱していないこと」への疑義が呈されるといった足元への揺さぶりと牽制は始まっており、5月のG7広島サミットが成功裏に終わったとしても、2024年9月の自民党総裁任期満了まで、解散の仕掛けを念頭に置きつつ緊張の日々が続くであろう。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

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