コラム

欧州政治 もはや「極右」の拡大と、権力への接近は止められない...現実路線と過激化の不協和音も

2024年06月12日(水)17時23分
フランス国民連合のマリーヌ・ルペン

国民連合のマリーヌ・ルペン(6月10日) Francois Pauletto / Hans Lucas via Reuters Connect

<フランスでは、欧州議会選挙でルペン氏の極右政党に大敗したマクロン大統領が国民議会の解散総選挙に追い込まれた>

[ロンドン発]欧州連合(EU)欧州議会選(6月6~9日、定数720)で極右・右派ポピュリストの「欧州保守改革グループ」(ECR)73議席(議席占有率10.1%)、「アイデンティティーと民主主義」 (ID)58議席(同8.1%)とそれぞれ前回の9.8%、7%を上回った。

フランスでは脱悪魔化を進めてきたマリーヌ・ルペン氏の「国民連合」(RN)31.4%、エリック・ゼムール党首率いる「再征服」のグループ5.5%と極右が過去最高の得票率を記録。エマニュエル・マクロン仏大統領は6月9日、国民議会(下院、定数577)の解散総選挙を宣言した。

国民議会解散は1997年のジャック・シラク大統領以来という大ギャンブルである。マクロン大統領は「今こそはっきりさせる時だ。わが国には穏やかに調和を持って行動するための明確な多数派が必要だ」と決意をみなぎらせた。第1回投票は6月30日、決選投票は7月7日だ。

メローニ伊首相は現実路線で支持広げる

イタリアではジョルジャ・メローニ首相率いる「イタリアの同胞」が28.8%と首位に立った。同党はネオ・ファシズムの流れを汲む。昨年、同国には15万5000人以上が不法入国し、メローニ首相はアルバニアで難民申請を処理する英国と同じ「ルワンダ方式」を導入した。

イタリア当局が海上で救助した難民を年間最大3万6000人収容する計画だ。収容施設はイタリアの費用で建設され、同国の法律に基づき運営される。人権問題を引き起こす恐れがあるとして、国際人権団体から「費用のかかる残酷な茶番」と批判の声が上がる。

「イタリアの同胞」は欧州懐疑派だが、メローニ首相はイタリアのEU離脱に反対する現実主義者。ウクライナ支援でもEUと足並みをそろえ、親露派の反逆児ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相、銃撃され重傷を負ったスロバキアのロベルト・フィツォ首相とは一線を画する。

極右の中でも嫌われる「ドイツのための選択肢」

ドイツでは極右「ドイツのための選択肢」(AfD)が致命的なスキャンダルにもかかわらず15.9%の票を得た。中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の30%に次いで2位につけ、オラフ・ショルツ独首相率いる社会民主党(SPD)の13.9%を上回った。

AfDはドイツ国籍を持つ人を含む多様な民族背景を持つ何百万人を出身国に強制送還する「再移民」計画を支持していると疑われている。昨年11月にポツダムで開催された極右政治家やネオナチが出席した秘密会議で話し合われたとされる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏、FRBへDOGEチーム派遣を検討=報道

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story