コラム

「50年ぶり」にアメリカからパンダがいなくなる...中国「パンダ外交」の歴史的転換は何を物語るか

2023年11月09日(木)17時43分

一方、ナンシー・メイス米下院議員(共和党)は昨年、米国で生まれたパンダが中国に返還されるのを阻止する法案を提出した。「ソフトパワー外交で中国共産党に対抗する一撃を放つ時が来た。中国共産党はパンダを1頭50万ドル(上野動物園は2頭で年95万ドル)で外国に貸与してきたが、米国生まれのパンダが米国に留まる自由を認めよう」と訴えた。

ロシアと中国の国交70年を迎えた19年、習近平国家主席はモスクワを訪れ、ウラジーミル・プーチン大統領にパンダ2頭を贈った。両首脳はモスクワ動物園のパンダパビリオンの開所式に出席、プーチンは「パンダの話になると私たちはいつも笑顔になる。パンダは中国の国家的シンボルで、私たちは友好のジェスチャーに大変感謝している」と礼を述べた。

環球時報「米国の政治エリートは視野が狭い」

中国共産党系「人民日報」傘下の「環球時報」英語版(11月7日付)は「米国の政治エリートはパンダに関して一般大衆よりはるかに視野が狭い」という社説を掲げた。「米国世論はこのデリケートな問題を取り上げ、1972年以来初めて米国でパンダが見られなくなる可能性があると驚きをもって報じた」と伝えている。

「一部の米メディアは反射的に『政治的要因によるものだ。中国は欧米の複数の動物園からパンダを徐々に引き揚げようとしているようだ』と主張している。中国がもはや米国主導の西側諸国に対して友好的でなくなっているという虚偽のシナリオを広げ、『中国はより閉鎖的になっている』という世論を作り上るセンセーショナリズムだ」

環球時報によると、スミソニアン国立動物園に貸与されていたメイションとティエンティエンは加齢に伴う健康問題に直面している。もはや海外で暮らすには適さない。この2頭にとって米国での23年間はすでに相当長い期間である。彼らの生息地に戻ることがより良い選択であることは明らかだという。

「パンダは中米友好協力の『イメージ大使』であり、中米両国民をつなぐ架け橋だ。これはこれまでもこれからも変わることはない。ここ数年、一部のパンダは貸与契約が終了し、中国に戻ったが、他のパンダは貸与契約が延長された。貸与基準はそれぞれのパンダの幸福を保証するために設けられており、契約更新は主に技術的な問題だ」と環球時報は説明する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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