コラム

G20サミットで「米欧vs中露」の対立鮮明...議長国インドはしたたかに立ち回り、首脳宣言は見送りか

2023年09月09日(土)17時47分

「インドはG20サミットを成功させることで『大国』としての地位を高めることを期待しているようだ。『インドとともにある』と主張する米国や西側はG20サミットの参加国間の『違い』を誇大宣伝するために多大な努力を払っている。今年のG20サミットはこれまで以上に騒々しく複雑な状況に直面する恐れがある」と指摘する。

「インドは6つの優先課題を発表している。グリーン開発と気候変動資金、包括的成長、デジタル経済、公共インフラ、テクノロジーの変革、女性のエンパワーメントのための改革である。西側が最も注目するロシアとウクライナの紛争では、インドはウクライナの指導者を今回のサミットに招待しなかった。経済回復と多国間外交に議論を集中させたいからだ」

米欧と中露の綱引きの場になったG20

世界金融危機の際、G20サミットは先進国と新興・途上国の国際協調の場として生まれた。G20は世界人口の3分の2、世界GDP(国内総生産)の85%、国際貿易の75%以上を占める。気候変動、環境、パンデミックなど地球規模の課題には多国間主義が不可欠だ。G20はもともと地政学的な競争の場ではなかったが、今や完全に米欧と中露の綱引きの場と化している。

環球時報は「昨年のインドネシア・バリでのサミット以来、米欧はG20を引き裂こうとする傾向を見せてきた。米国と西側の世論は第一にBRICS拡大後のメカニズムを注視し、G20との『対立』を誇張している。第二にインドの議長国という立場につけ込んで中国とインドの対立を誘発し、龍と象の競争を煽っている」と米欧批判を強めている。

G20サミットに先立ち、ジョー・バイデン米大統領は8日、ナレンドラ・モディ首相と会談、防衛協力を含む米国とインドの緊密かつ永続的なパートナーシップを再確認した。自由、民主主義、人権、包摂、多元主義、全国民に平等な機会という共通の価値観が両国の関係を強化することを強調した。 6月にモディ首相は歴史的なワシントン訪問を果たしている。

バイデン、モディ両首脳は自由で開かれた包摂的で強靭なインド太平洋を支える上で日本、米国、オーストラリア、インド4カ国(クワッド)の重要性も改めて確認。 モディ氏は24年にインドが主催する次回クワッド首脳会議にバイデン氏を迎えることを期待している。インドは米国がインド太平洋海洋イニシアティブの柱を共同主導することも歓迎した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story