コラム

ウクライナを広島になぞらえたゼレンスキー...戦争と核の悪夢を未来に残さないための重い問いかけ

2023年05月23日(火)18時56分

230523kmr_02.jpg

キーウ近郊イバンキフ村の介護施設に寄贈された日本の車いす(筆者撮影)

「成人人口は2万2000人で、半数が年金受給者。その年金受給者の3分の1が障害を抱えています。チョルノービリ原発事故で骨にストロンチウムやセシウムが蓄積され、多くの人が筋骨格系の病気に苦しんでいます。さらに昨年2月の侵攻で私たちは36日間、ロシア軍の占領下に置かれました。家屋が破壊され、多くの犠牲を出しました」

「ロシアとの戦争が起きるとは思いもしなかった」

「まったくウクライナとロシアの間で戦争という悪夢のような展開になるとは思ってもみませんでした。プーチンの『V(ウラジーミルの頭文字)』がペイントされたロシア軍の武装車両が村にやってきて、目を疑うような光景が繰り広げられました。近所の通りで戦闘が始まり、父子が射殺されたと聞きました。本当の戦争なんだと痛感しました」(ネステレンコ所長)

230523kmr_01.jpg

イバンキフ村の社会サービス地域センターのナタリア・ネステレンコ所長(筆者撮影)

36日間のうち28日間は電気、水、暖房が使えなかった。薪ではなく、ガスが使えた人はマシだった。3月6日以降、多くの破壊が行われ、電話もかけられなくなった。郊外では激しい戦闘が繰り広げられ、完全に破壊された村もあった。81の集落のうち46の集落が被害を受け、占領中に銃撃や爆撃、空襲で49人が殺され、46人が負傷した。

機能していたのはパン屋と病院だけだった。病院では負傷者や住民を治療し、24人の赤ん坊が誕生した。ロシア兵に銃を突きつけられて手術を行った医師は「俺たちが手術台で死んだら、お前たちは皆殺しだ」と脅された。住民たちは日常生活を送るため白旗の代わりに白いシートを車に巻きつけて検問所を通り抜け、食料品や飲料水を調達した。

午後8時になると、ロシア軍は空に向けて大砲を撃ちまくった。ロシア兵は「怖いだろ。大砲を撃っているんだ」と住民を脅した。死体を積んだトラックが走り、首や腕や足が見えたと住民たちは震え上がった。チェチェン共和国の「狂犬」ラムザン・カディロフ首長が村の小学校の地下で指揮をとっていることもカディロフ自身のSNSの投稿で分かった。

230523kmr_04.jpg

230523kmr_05.jpg

イバンキフ村に侵攻してきたロシア軍の武装車両(介護施設責任者ミハイル・ベレノク氏提供)

悲劇や戦争は社会を結晶化させる

2500軒以上の住宅が損壊し、480軒は完全に破壊された。161軒は支持構造が損傷したため、大規模な修理が必要だ。11基の橋が破壊され、25の文化施設、15の教育機関、5の医療機関が被害を受けた。3つの学校も深刻な被害を受けた。イバンキフ村から避難したのは600人程度で、それ以外はみんな残った。ロシア軍がすぐに来たので逃げられなかったのだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story