コラム

子供たちの顔に「笑顔」が...医療ひっ迫するウクライナに「日本の車いす」を贈るプロジェクト

2023年04月27日(木)19時15分
ウクライナに寄付された日本の車いす

リハビリセンターで母親に日本の車いすを押してもらう女の子(筆者撮影)

<負傷した兵士であふれ返るウクライナの医療機関。不足する車いすを日本から寄贈するプロジェクトを、現地で取材した>

[ウクライナ西部テルノピリ発]オールジャパンで車いすをウクライナに送るプロジェクト(Japanese Wheelchair Project for Ukraine)の第2便150台のうち140台が配布された西部テルノピリ州の子ども病院と養護施設、病院2カ所を4月24日から3日間にわたって訪れた。市内の病院は負傷兵であふれ返り、戦時病院と化していた。

22日早朝、ロンドンからポーランド・クラクフ空港に飛び、長距離バスでウクライナ西部リビウへ。さらに小型バスに乗り換えて目的地のテルノピリ市に向かった。国境越えの手続きは1時間20分弱で昨年6月にウクライナを訪れた時に比べてかなりスムーズになっていた。乗客は前回同様、週末だけウクライナに一時帰国する女性や子供連れの母親が大半だ。

テルノピリ市に向かう夜道は小型バスのヘッドライトだけで真っ暗だった。午後11時前、バス停そばのホテルにたどり着き、お酒を買おうと近くのスーパーに飛び込んだが、アルコール類の販売が許されているのは午後9時まで。ロシア軍がウクライナに侵攻した当初はアルコール類の販売は禁止されていた。

週末の23日、湖のようなセレト川の河畔はアベックや家族連れでにぎわい、これがロシアと戦争としている国かと思わせるほどの、のどかさだった。昨年6月にはリビウでもひっきりなしに鳴り響いていた空襲警報が聞こえることは一度もなかった。東部や南部の前線から遠く離れて平穏なテルノピリは多くの避難民、負傷兵を受け入れている。

230427kmr_lwu01.jpg

若者やアベック、家族連れで賑わうセレト川河畔の公園(筆者撮影)

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、ウクライナ戦争で800万人以上のウクライナ人が欧州に逃れ、さらに同国内で530万人が自宅を追われている。

「激戦地マリウポリを含め全土の子どもが集まって来る」

テルノピリ州立小児臨床病院には「希望の車いす」「『飛んでけ! 車いす』の会」「海外に子ども用車椅子を送る会」の3団体から車いす15台、バギー2台が贈られた。グリゴリー・コリツキー院長が「心から感謝しています。今日はこの病院のすべてをお見せします」と言って院内を案内してくれた。

230427kmr_lwu02.jpg

テルノピリ州立小児臨床病院に届いた日本の車いす(同)

ロシア軍の侵攻以来、405床のベッドは満床状態で、院内は子どもや家族であふれ返っていた。「ロシアが占領している南部や東部から一時的に避難している人たちが常にいます。激戦地となったマリウポリを含めウクライナ全土の子どもたちが集まって来ます。私たちの病院はこの地域で唯一、24時間体制のケアを提供しています」(コリツキー院長)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米民主党、エプスタイン氏関連写真公開 新たに68枚

ワールド

全国コアCPI、11月は+3.0%で伸び横ばい エ

ワールド

NY証取など、24・26日の取引時間に変更なし 連

ビジネス

米ナイキ、9─11月決算が予想上回る 利益率低下で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story