コラム

ドイツの極右テロ組織「帝国市民」クーデター計画が浮き彫りにする民主主義の危機

2022年12月09日(金)17時06分
帝国市民の「ハインリヒ13世」

拘束された「ハインリヒ13世」(フランクフルト、12月7日) Tilman Blasshofer/Reuters TV via REUTERS

<米連邦議会の襲撃事件と同様、ドイツでのクーデターを企てた組織にもQアノンの陰謀論や、ネット上で広まる極右過激派の思想が大きく影響していたとみられる>

「インターネットを理解せずに極右は理解できない。極右を理解せずしてインターネットは理解できない」「何年もの間、当局はデジタル空間を真剣に考えず、法整備が不十分だ。このため極右テロリストのサブカルチャーが何の規制も受けることなく繁殖することが可能になり、未成年者でも簡単にアクセスできる」

陰謀論イデオロギー、偽情報、反ユダヤ主義、右翼過激主義に対する早期警告システムの構築を目指すドイツ非営利組織CeMASのミロ・ディトリッヒ上級研究員はこう警鐘を鳴らしてきた。そんな中、独連邦検察庁が独自国家樹立のため現体制の転覆を狙って連邦議会の襲撃を企てた疑いがあるとして極右テロ組織と支援者計25人を拘束し、世界に衝撃を広げた。

独裁者アドルフ・ヒトラーが第二次大戦を引き起こし、ユダヤ人やマイノリティを虐殺したドイツは戦後、ナチズムや極右思想を徹底的に排除して自由と民主主義、平和主義の模範生になった。今や欧州連合(EU)の押しも押されもせぬリーダーだが、欧州債務危機や100万人を超える難民がドイツに押し寄せた欧州難民危機で極右勢力が台頭するようになった。

今回の事件について、ディトリッヒ上級研究員は「彼らはドイツ軍ともつながっている。辛い出来事だったコロナ・パンデミックによりグループがさらに過激化し、支援者も増えた。陰謀論は多くの人々にとって非常に魅力的だった」と英BBC放送に語る。陰謀論は自分の存在意義を見失った人たちに居心地のいい独自の世界観を与えている。

「民主主義は無防備だ」

「民主主義は無防備だ。今朝から大規模な対テロ作戦が行われている。ドイツ連邦検察庁は『ライヒスビュルガー(帝国市民)』系のテロリスト・ネットワークが関与していた疑いがあるとみて捜査している。憲法上の機関に対する武力攻撃が計画された疑いがある」――マルコ・ブッシュマン独法務相は7日こうツイートした。

主犯格の1人は「ハインリヒ13世」を名乗る男(71)で、貴族の家系出身。右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」元連邦議会(下院)議員で現職裁判官ビルギット・マルザック=ヴィンクマン容疑者や元空挺部隊員も拘束された。この組織は昨年11月末に設立され、1871年のドイツ帝国を模倣した王政を復活させることを目指し、射撃訓練も行っていた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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