コラム

「渡航禁止の解除を」WHO勧告を無視する日本とオミクロン株をまん延させたイギリスの違い

2022年01月21日(金)20時43分

ボリス・ジョンソン英首相は19日、下院で「科学者はオミクロン株が全国的にピークに達した可能性が高いと考えている」と述べ、イングランドでコロナ規制を在宅勤務や免疫パスポートの一部義務化など「プランB」から陽性者の自己隔離に絞る最小限の「プランA」に引き下げる考えを示した。教室でのマスク着用も義務ではなくなった。

自己隔離の期間は2回陰性反応が出れば5日間に短縮される。ロンドン市内の公共交通機関ではサディク・カーン市長(労働党)がマスク着用の義務化を残したものの、それ以外では人混みや閉鎖空間での着用を勧めるのみだ。すべてが個人の判断に委ねられた。イギリスでは社会的距離など非医薬品介入はワクチン展開のための時間稼ぎとしか考えられていない。

今回の決定は、市民に厳しい接触制限を強いながら首相官邸や官庁街で日常的に大人数の飲み会が行われていたスキャンダルで与党・保守党の下院議員から辞任を求められているジョンソン首相がコロナ規制の撤廃で多数派を確保しようとした面は否定できない。専門家はジョンソン首相の判断をどう見たのか。

賛否が分かれる専門家

英スワンジー大学のサイモン・ウィリアムズ上級講師(人間と組織論)は「ここ数週間のイギリスにおける新規感染者数の急激な減少に多くの人が楽観かつ安堵しているのは当然のことだ。データは私たちがオミクロン株感染のピークを越したことを示唆しており、ウイルスと共存できる新しい段階に入ったことを示している」という。

「義務化された対策を必要以上に長く行うべきではないという意見が多くの市民の間に存在している。ジョンソン首相の決定の多くはコロナに関するデータと、法的規制より個人の責任を重視する世論の両方に沿っている。感染が減少し続けるのであれば免疫パスポートを廃止するのは理にかなっている」

一方、ピーター・イングリッシュ前英医師会(BMA)公衆衛生医学委員会委員長は「患者数は依然として非常に多い。通常の生活に戻りたいという強い気持ちは理解できるが、慎重になるべきだ。週10万人当たり10人以上の感染者が出ている場合、屋内の公共スペースや公共交通機関でのマスク着用は義務化すべだ」と慎重な見方を示す。

英医学院のアン・ジョンソン教授も「依然として20人に1人の割合で感染している。規制が緩和されても自分自身や周りの弱者が感染するリスクを管理するため誰もが対策を講じられることを忘れてはならない。屋内の混雑した場所でマスクを着用することは感染リスクを低減する賢明な手段だ。コロナやそれ以外の予防接種も重要だ」と強調した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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