コラム

「ネットゼロ金融同盟」の金融資産1京4800兆円に ロンドンは「ネットゼロ金融市場」宣言

2021年11月04日(木)12時01分
スナク英財務省

緑のボックスを掲げ、ロンドンを世界初の「ネットゼロ金融」の拠点にすると宣言したスナク英財務省(11月3日、グラスゴーのCOP26で)

<英中央銀行の前総裁マーク・カーニーとリシ・スナク英財務相──2人のゴールドマン・サックス出身者が資金を集めスキームを作り上げた世界初「脱炭素のためのシティー」構想とは>

[英北部スコットランド・グラスゴー]英中央銀行・イングランド銀行のマーク・カーニー前総裁は国連の気候変動問題担当特使と気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)でボリス・ジョンソン英首相の資金問題担当のアドバイザーを務める。COP26議長国のリシ・スナク英財務相と同じ米金融グループ、ゴールドマン・サックス出身だ。

英グラスゴーで開かれているCOP26の「資金デー」の3日、カーニー氏は自ら率いる「2050年にネットゼロ(温室効果ガス排出量を実質ゼロにすること)を実現するグラスゴー金融同盟」の金融資産は2年前には5兆ドル(約570兆円)に過ぎなかったが、今では米英のグローバルバンクなど45カ国450機関で130兆ドル(約1京4800兆円)に達したと報告した。

カーニー氏は演説で「転換点を迎えた。すべての金融活動の意思決定が気候変動を考慮に入れたものになるよう、気候変動を金融の最前線に移すために必要な体制が整ってきた」と述べた。ネットゼロに向け今後30年にわたって金融同盟から、温暖化対策に必要とされる100兆ドル(約1京1400兆円)が支援に充てられるようになるという。

ロンドンを史上初の「ネットゼロ金融センター」に

スナク財務相もこれに先立ち「世界の財務相、企業、投資家が共通の目的を持って集まった初のCOP。世界経済の少なくとも80%がネットゼロやカーボンニュートラルの目標を掲げている」と演説し、公的資金の拡大、民間資金の動員、世界の金融システムをネットゼロに向け再構築することを提案した。

先進国は5年間で途上国に温暖化対策資金計5千億ドル(約57兆円)を提供する計画だが、資金不足に陥っている。このため英政府は途上国が必要な資金を容易に調達できるよう「気候資金へのアクセスに関するタスクフォース」に1億ポンド(約156億円)を拠出、イギリスで数十億ポンドのグリーンボンドを発行する資本市場メカニズムを構築する。

第二の民間資金の動員は、金融同盟の資産を低炭素社会の未来に投資する。スナク氏は「投資家は自分の投資による気候変動への影響を損得という指標と同じくらい明確にする必要がある」という。最後の、世界の金融システムをネットゼロに向け再構築するために必要なツールは次の通りだ。

一貫した良質の気候データ、ソブリン・グリーンボンド、サステナビリティーに関する情報開示の義務化、気候リスクの監視、強力なグローバル報告基準だ。企業による気候関連財務情報の開示はイギリスではすでに義務化されており、他の35カ国も同様の取り組みに同意した。スナク氏はロンドンが史上初の「ネットゼロ金融センター」になると宣言した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

外国企業復帰、ロシアの利益になるかどうか注視=検事

ワールド

石破首相、NATO首脳会議出席取りやめへ 岩屋外相

ワールド

豪、米のイラン攻撃を支持 外交再開呼びかけ

ビジネス

独アウディ、トランプ関税対応で米での工場建設案が浮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 2
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story