コラム

「ネットゼロ金融同盟」の金融資産1京4800兆円に ロンドンは「ネットゼロ金融市場」宣言

2021年11月04日(木)12時01分

イギリスの金融機関や上場企業に対し、50年にネットゼロ経済に移行する際、どのように適応し、脱炭素化するかを詳細に説明した移行計画を23年までに公表することを新たに求めた。欧州連合(EU)からの離脱で相対的に地盤沈下している国際金融都市ロンドンを脱炭素化で再浮上させる狙いがある。

また、世界銀行とアジア開発銀行(ADB)も途上国支援のため最大85億ドル(約9700億円)の新規資金調達を目指す。新たな資金調達メカニズム「気候投資基金資本市場メカニズム(CCMM)」をつくり、途上国の太陽光や風力など再生可能エネルギーへの投資を促進する。

「カーボン・オフセット」というまやかし

草の根の国際環境ネットワーク「フレンズ・オブ・アース・インターナショナル(FoEI)」は今年2月に発表した報告書「カーボンユニコーンを追いかける 炭素市場と『ネットゼロ』のまやかし」の中で「カーニー氏は『オフセットの自主的炭素市場の充実なくして排出量を実質ゼロにはできない』と断言している」と指摘している。

カーボン・オフセットとは、日常生活や経済活動でどうしても避けられない二酸化炭素などの温室効果ガスの排出について、排出量に見合った削減活動に投資することによって埋め合わせようという考え方だ。しかし、そこには危険なまやかしが潜んでいる。

「過去にオフセットを購入した多くの買い手が、実際にはオフセットによって排出量が削減されてもいなければ、大気中の温室効果ガス濃度も低下しないことに気付いた。自主的炭素市場のオフセット価格はあまりにも低いため、排出量を削減する(理論上の)動機付けとしては無意味で役に立たない」

「企業は気候変動を深く憂慮している私たち一般市民に自分たちが気候危機について真剣に取り組んでいると思わせつつ、魅力的な響きのオフセットを利用して『ネットゼロ』を目指すつもりなのだ」と報告書は警鐘を鳴らしている。

FoE Japanの小野寺ゆうり顧問は「カーニー氏の金融同盟は50年ネットゼロを想定しており、それでは遅すぎる。世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ摂氏1.5度以内に抑えられるかどうかは今後10年の排出削減にかかっている。先進国の排出量を相殺するため吸収源として途上国を囲い込む『炭素植民地化』を引き起こす危険性がある」と語る。

金融同盟の1京円を上回る金融資産がオフセットによる途上国の『炭素植民地化』ではなく、再生可能エネルギーへの移行による排出削減につながるよう目を光らせる必要がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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