コラム

7月19日に正常化するイギリス 1日5万人の感染者も許容範囲内 「コロナとの共生」を模索

2021年07月06日(火)12時12分
ウィンブルドンの観客

新型コロナウイルスによる観客数制限が緩和され、テニスを観にウィンブルドンに戻ってきた観客(7月5日) Peter van den Berg-USA TODAY Sports.

<「パンデミックは終わりには程遠い」と言いつつ「正常化」に踏み切ろうとするジョンソン英首相がよって立つ根拠とバランス感覚>

[ロンドン発]デルタ(インド変異)株が猛威をふるうイギリスで新規感染者数が2万7千人を超える中、ボリス・ジョンソン首相は5日「ワクチン接種が進み、感染と死亡の関係を断ち切ることができた。コロナと共生する新しい方法を見つけなければならない」と19日に正常化する見通しを確認した。しかし、その"コロナ自由記念日"には感染者は1日5万人に達するという。

イギリスの"コロナ自由記念日"は当初、6月21日に設定されていたが、デルタ株の大流行に対してワクチン展開の時間を稼ぐため4週間延期された。12日に最新データを確認した上で最終決定するという。

ジョンソン首相は「このパンデミックは終わりには程遠い。警戒を怠るわけにはいかない。ワクチンが効かない新たな変異株が出てきた時は社会を守るためにいかなる手段であっても講じる必要がある。しかし、寒くなる秋に正常化するのを想像することは困難だ」と学校が休みになる夏に正常化する理由を述べた。

イングランド公衆衛生庁によると、米ファイザー製ワクチンを2回接種すれば入院や重症化を防ぐ有効性は96%、英アストラゼネカ製ワクチンの入院・重症化防止の有効性も92%だ。英政府のデータ(下のグラフ)を見ても1日の新規感染者は第3波に突入していることを示しているものの、入院患者や死者はそれほど増えていないことが一目瞭然だ。

kimura20210706092201.jpg

ジョンソン首相は1メートル以上の社会的距離政策、結婚式や葬式など集会や飲食店の制限、リモートワークを解除するとともにナイトクラブも解禁する方針を明確にした。マスク着用は法的義務ではなくなったものの、「3密」状態で普段会わない人に接触する時はマスク着用を勧める政府のガイダンスが示される。現在の厳格な渡航制限は維持される。

35歳以上の抗体保有率は92.7%

ジョンソン首相は40代未満に対する2回接種の間隔を12週間から8週間に短縮し、9月中旬までに18歳以上の2回接種を済ませる。さらにハイリスクグループに対する3回目の接種を秋に行うという。左腕にコロナワクチン、右腕にインフルエンザワクチンを接種するという"裏技"も検討されている。

イギリスでは成人人口の86.1%が1回目接種を終え、64%が2回目の接種を終了している。自然感染やワクチン接種による抗体保有者は35歳以上で92.7%に達している。現在、感染は24歳未満に集中。このうち入院しているのはワクチンの2回接種によっても十分な免疫ができなかった75歳以上、15~44歳のワクチン未接種者が多くなっている。

kimura20210706092202.jpg
英国家統計局(ONS)のホームページより

英政府は迅速検査やPCR検査、抗体検査に加えてゲノム解析も実施して変異株の流行に目を光らせており、検査や接触追跡アプリで感染者や濃厚接触が疑われる人をあぶり出して、自己隔離を求め感染拡大を防ぐ方針だ。

科学者の意見は二分

しかし7月19日に法的制限を解除して、個々人の自発的な感染防止策に委ねることを懸念する声もある。科学者の意見も二分している。

英インペリアル・カレッジ・ロンドンのリチャード・テダー教授(医療ウイルス学)は「ワクチンは現在、感染を防ぐのではなく、発症を防ぐために使用されている。行動制限を解除すれば、ワクチンに対してさらに耐性を持ち、より感染力のある変異株を生む非常に現実的なリスクを伴う。感染しても発症率が低いことを強調するのは危険だ」と指摘する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

アングル:需要高まる「排出量ゼロ配送」、新興企業は

ビジネス

アングル:避妊具メーカー、インドに照準 使用率低い

ビジネス

UAW、GMとステランティスでスト拡大 フォードと

ワールド

ゼレンスキー氏、カナダの支援に謝意 「ロシアに敗北

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:グローバルサウス入門

特集:グローバルサウス入門

2023年9月19日/2023年9月26日号(9/12発売)

経済成長と人口増を背景に力を増す新勢力の正体を国際政治学者イアン・ブレマーが読む

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 2

    J.クルーのサイトをダウンさせた...「メーガン妃ファッション」の影響力はいまだ健在

  • 3

    アメックスが個人・ビジネス向けプラチナ・カードをリニューアル...今の時代にこそ求められるサービスを拡充

  • 4

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」…

  • 5

    毒を盛られたとの憶測も...プーチンの「忠実なしもべ…

  • 6

    ワグネルに代わるロシア「主力部隊」の無秩序すぎる…

  • 7

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 8

    ロシアに裏切られたもう一つの旧ソ連国アルメニア、…

  • 9

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 10

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に…

  • 1

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務所の「失敗の本質」

  • 2

    突風でキャサリン妃のスカートが...あわや大惨事を防いだのは「頼れる叔母」ソフィー妃

  • 3

    米モデル、ほぼ全裸に「鉄の触手」のみの過激露出...スキンヘッドにファン驚愕

  • 4

    インドネシアを走る「都営地下鉄三田線」...市民の足…

  • 5

    「死を待つのみ」「一体なぜ?」 上顎が完全に失われ…

  • 6

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 7

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に…

  • 8

    「特急オホーツク」「寝台特急北斗星」がタイを走る.…

  • 9

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」…

  • 10

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 1

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」が、家族に送っていた「最後」のメールと写真

  • 2

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 3

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 4

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部…

  • 5

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 6

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 7

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 8

    バストトップもあらわ...米歌手、ほぼ全裸な極小下着…

  • 9

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 10

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story