コラム

7月19日に正常化するイギリス 1日5万人の感染者も許容範囲内 「コロナとの共生」を模索

2021年07月06日(火)12時12分

英リーズ大学医学部のスティーブン・グリフィン准教授は「焦って制限を解除すると、デルタ株による感染者数を劇的に増やし、不必要な害をもたらす恐れがある。感染と重症化の関連性はワクチン接種で弱められているが、なくなっていないことはほぼ確実だ。若者やワクチン未接種者の入院が増え、重症化や長期コロナ感染症がみられるだろう」と警戒する。

マスク着用が法的義務ではなくなったことについて、英ブリストル大学コンピューターサイエンス学部のローレンス・エイチソン講師(機械学習・計算論的神経科学)は「私たちの調査では、全員がマスクを着用した場合、コロナの蔓延は約25%減少する。人々はマスク着用に慣れてきた。通常の活動を再開する一方で、マスクを着用することはリスクを管理するために誰にでもできる簡単なことだ」という。

イギリス医師会(BMA)公衆衛生医学委員会のピーター・イングリッシュ前議長は「デルタ株は空気中を伝わって感染する。集会の規模が大きくなるほどリスクは高くなるが、適切な換気によってリスクを軽減できる。次善の策はマスクだ。店内や公共交通機関などでのマスク着用は邪魔にはならない」と語る。

「インフルエンザと同じように途中で犠牲者が出る」

英イーストアングリア大学ノリッジ医学部のポール・ハンター教授は「コロナが消えてなくなることは決してない。それほど遠くない将来、コロナは毎年大人より子供がひく一般的な風邪になるだろう。コロナに繰り返し感染することが避けられない場合、問題はすべての制限を解除するのが安全か否かではなく、いつ解除するのが最も安全かということだ」と指摘する。

「秋まで解除を先延ばしすると、学校が再開されるので感染が増え、秋の3回目接種に先立ってワクチンによる免疫が弱まるとともに季節性呼吸器感染症が増え始めるかもしれない。コロナに感染する前後にインフルエンザにかかった場合、死亡するリスクは約2倍になる。おそらく今年か来年の冬にインフルエンザが流行り、被害を広げる恐れがある」という。

英レスター大学のジュリアン・タン名誉准教授(臨床ウイルス学)は「経済と教育を再開するためには制限を解除する必要がある。しかしデルタ株に感染して入院する人が徐々に増加している。ワクチンや自然感染による免疫が長期コロナ感染症やさまざまな変異株に効くかどうか分からない。感染の拡大により新たな変異株が生まれてくる」と解説する。

「こうした事情を考えると、自発的なマスク着用などある程度の個人的な制限を維持することは感染を遅らせる上で賢明かもしれない。しかし、これらはすべて"ウイルスと一緒に暮らすことを学ぶ"プロセスの一部だ。インフルエンザと同じように残念ながら途中で犠牲者が出るだろう」

英イングランドではインフルエンザによる死亡は2016年度で約1万5千人、17年度には約2万2千人にのぼった。コロナではこれまでに15万2606人が死亡している。因果関係が分からないものがほとんどだが、ワクチン接種後に亡くなった人も1403人に達する。これから2度目の冬に向け、死者はどれぐらい増えるのだろうか。

コロナによる死もインフルエンザと同じように日常の光景になっていくのかもしれない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀10月会合、利上げへ「条件整いつつある」 春闘

ワールド

原油先物は上昇、米政府再開への期待が供給懸念を相殺

ワールド

フィリピン北部に台風26号、死者2人 複数の町が孤

ワールド

焦点:米国株の調整局面、投資家は「一時的な足踏み」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 10
    「豊尻」施術を無資格で行っていた「お尻レディ」に1…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story