コラム

イギリスがデルタ株の感染再燃で正常化先送りなのに、G7参加の菅首相は「五輪開催」宣言

2021年06月12日(土)18時47分
ジョンソン首相夫妻と菅首相夫妻

G7首脳会議が開かれるコーンウォールの海岸でコロナ式挨拶を交わすジョンソン首相夫妻と菅首相夫妻(6月11日) Phil Noble-REUTERS

[ロンドン発]先進7カ国首脳会議(G7サミット)が南西部コーンウォールで開かれているイギリスで6月21日に予定されていた「全面正常化記念日」が4週間後の7月19日に先送りされる見通しとなった。感染力が非常に強い新型コロナウイルスのデルタ(インド変異)株が爆発的に流行しているためだ。

英医師会は正常化延期を求める連続ツイートで次のように指摘した。
・症例が過去2週間で159%増加。5 月 24 日の 2912 人から 6 月 9 日の 7540 人に
・制限緩和のための 4つの 基準を満たしていない。指数関数的な増加の段階にある
・デルタ株や5月の制限緩和(ステップ3)の影響を評価するのに時間が必要
・死亡率への影響が明らかになるまで 4 週間かかる
・6 月 6 日までの1週間に60 歳以上は 27% しか症例が増えていないのに20 ~ 29 歳は 121% 増加
・若者の多くはワクチンの接種を受けていないため感染しやすく、重症化やコロナ後遺症のリスクが懸念される。そのため感染率を低く抑えることが重要

英政府はワクチンの1回目接種を成人人口の78%(4108万8485人)に、2回目接種を55.4%(2916万5140人)に済ませた。合計した接種回数は7千万回以上だ。現在、全面正常化に向けた4段階ロードマップの「ステップ3」で飲食店の屋内営業やホテルや映画館が再開されている。屋内で会えるのは6人または2世帯までだ。

「第3波」突入の恐れ

しかし、直近の1週間を見ると感染者は対前週比58.1%増の4万5895人、入院は14.4%増の975人、死者も10.9%増の61人と膨れ上がっている。感染症数理モデルの世界的権威、英インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授をはじめ多くの専門家が、イギリスが「第3波」に突入する危険性を指摘している。

イングランド公衆衛生庁(PHE)が6月11日に公表した報告書によると、デルタ株の家庭内感染はアルファ(英変異)株に比べ1.64倍も起こりやすい。アルファ株はそれまでの株より最大で1.7倍も感染しやすいとみられており、単純計算で1.7☓1.64=2.788、つまり2.8倍近く感染しやすいことになる。

検査した日から2週間以内に入院するリスクでみると、デルタ株はアルファ株の2.26倍。ワクチンの有効性は1回接種ではアルファ株で50.2%、デルタ株で33.2%止まりだが、2回接種するとアルファ株で88.4%、デルタ株で80.8%までアップする。このため、英政府はデルタ株対策として4週間の時間を稼ぎ、感染拡大地域で2回接種を急ぐ方針だ。

PHEによると、直近では確認されたコロナウイルスの74~96%がデルタ株だという。

ロザリンド・フランクリン研究所所長のジェームズ・ナイスミス英オックスフォード大学教授は「スコットランドとイングランドで感染力の強いデルタ株が同様に蔓延している。コロナで1年間延期されていたUEFA欧州選手権(ユーロ2020)のような大規模なイベントは感染が突然拡大する重大なリスクになる」と警鐘を鳴らす。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

AIブーム、崩壊ならどの企業にも影響=米アルファベ

ワールド

ゼレンスキー氏、19日にトルコ訪問 和平交渉復活を

ワールド

中国の渡航自粛、観光庁長官「影響を注視」 10月は

ワールド

北朝鮮、米韓首脳会談の成果文書に反発 対抗措置示唆
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story