コラム

アストラゼネカ製ワクチン EU加盟国が一時使用停止は新たなイギリスいじめ?

2021年03月16日(火)18時00分
英製薬大手アストラゼネカのコロナワクチン

欧州全体で1700万人以上がアストラゼネカ製ワクチンの接種を受けたが、血栓症発症の確率は一般よりも低いという REUTERS/Dado Ruvic/Illustration

<血栓症を警戒するあまり、使用中止で接種が遅れるリスクも>

[ロンドン発]これは欧州連合(EU)による新たなイギリスいじめなのか──。英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが共同開発した新型コロナウイルスワクチンについて、接種後に血栓症を生じる疑いがあるとして、欧州連合(EU)加盟15カ国が使用を一時停止する事態に発展している。

使用を一時停止したEU加盟国はフランス、イタリア、スペイン、ドイツ、ポルトガル、アイルランド、ブルガリア、デンマーク、スロベニア、オランダ。オーストリア、リトアニア、ラトビア、エストニア、ルーマニアは死亡例が出た同じ梱包のアストラゼネカ製(AZ)ワクチンの使用を差し止めた。

3月8日、オーストリアで接種数日後に49歳の看護師が「重度の出血性疾患」で死亡。11日にはデンマークで血栓症と死亡の報告があり、「非常に珍しい症例」として調査のためAZワクチンの使用を一時停止した。13日にはノルウェーでも血栓症や脳出血の報告が3件あった。

ドイツ保健省も15日、「脳静脈の血栓症の報告があり、さらなる調査が必要だ」として一時使用停止に踏み切った。エマニュエル・マクロン仏大統領も同日、「EUの欧州医薬品庁(EMA)による新たな評価が行われるまで、"予防措置"としてAZワクチンの使用を一時停止する」と発表した。

イタリアでは過失致死で捜査

イタリアではAZワクチンを接種した翌日に亡くなった音楽教師サンドロ・トニアッティさん(57)について過失致死罪で捜査を開始した。EU域外のアイスランド、ノルウェー、タイ、インドネシア、ベネズエラも使用を一時見合わせた。

これに対して、EMA安全委員会は15日、「EU域内では毎年さまざまな理由で何千もの人が血栓症を発症している。AZワクチンを接種された人々の血栓塞栓症の発症率は一般より多くない。AZワクチン接種の利点は副反応リスクを上回っている」との見解を維持した。

EMAは18日に調査した結果を報告し、これを受けてEU加盟国は対応を決めるとみられている。

英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)のフィル・ブライアン博士は「報告されているデンマークでの血栓症はAZワクチンによって引き起こされたということは確認されていない。血栓は自然に発生する可能性があり、珍しいことではない。これまでの報告数は自然に発生したであろう数よりも多くはない」と言う。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、イラン在外凍結資産の解除に同意=イラン高官筋

ワールド

ガザ平和評議会、資金不足報道否定 「要請全額満たさ

ワールド

情報BOX:米とイラン和平交渉、知っておくべき主な

ワールド

米とイランの交渉団がパキスタン入り、レバノン停戦な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 5
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 6
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 7
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 10
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story