コラム

ワクチンが灯した「希望」を「絶望」に変えた南ア変異株 イギリスはローラー検査でシラミ潰し作戦を開始

2021年02月03日(水)09時47分

庭を100周してコロナと戦うための支援金を集めたムーア氏も2日、コロナで亡くなった Peter Cziborra-REUTERS

[ロンドン発]「この1年、どこかでコロナと会っているはず。でも感染も発症もしなかった。私はワクチンに強い副反応を起こしたことがあるので、コロナワクチンは無理かもしれない。どんなにウイルスが変異してもこれまで勝ってきたんだから、希望を捨ててはダメと言い聞かせている」

kimura20210203094401.jpg
ロンドンを拠点に活動する歌手、鈴木ナオミさん(本人提供)

ロンドンを拠点に活動する歌手、鈴木ナオミさんは免疫力が少しでも落ちると肺炎と出血を繰り返し、2019年5月に肺の手術を受けた。新型コロナウイルス感染症のハイリスクグループだ。しかし5~6年前、肺炎球菌ワクチンを接種した時、副反応で摂氏40度の高熱が出て、腕がスイカのように腫れた。

「それでも絶望しないのは、安全距離やマスク着用、手洗いといった感染対策をしっかりしていればウイルスを恐れる必要はないから。しかし、ほとんどの人はこの状況を受け止められないでいる。だから外に出る必要がない私が音楽を通じて"みんな元気を出して頑張ろうぜ!"と励ましたいの」

イギリスでは昨年3月、1度目のロックダウン(都市封鎖)が敷かれた。ナオミさんは「明日どうなるか分からない命だからこそ、手元にある未発表の曲を世の中に出しておきたい」と随分、昔につくってもらった曲「ハーダー・アンド・ファースター」をiTunes(アイチューンズ)で配信した。

3カ月後、この曲が世界1640人のラジオDJが選ぶ「キングズ・オブ・スピン・トップ30」の1位に輝いた。そして新年「♪真っ直ぐ続く道 希望の鐘が鳴る街 本当の幸せ いつしか忘れ」とコロナ危機と世界の分断、希望の光を歌った「プレイ・フォー・ユー2021」が再び1位に飛び出したのだ。

歩行募金で47億円集めたキャプテン・トムもコロナに死す

イギリスでは2日、第二次世界大戦の生き残りで、原則無償で医療を提供する英国民医療サービス(NHS)を支援しようと自宅の庭を往復して150万人から約3280万ポンド(約47億円)を集めた英陸軍退役大尉トム・ムーア氏(100歳)が急逝した。肺炎治療のためコロナワクチンは接種していなかった。

「歩行補助具を使って庭を往復する彼の募金活動で国が一つになった。イギリスらしいなと思った。私も癒やされた」とナオミさんは言う。イギリスはワクチンの集団接種で感染防止の防波堤を築く「集団免疫」を目指し、965万人に接種。介護施設の1万人、80歳以上の9割、70歳以上の半分が接種を終えた。

感染力が最大70%も強い英変異株の猛威が3度目の都市封鎖で鎮静化し始めたものの、ワクチンの有効性を6分の1に低下させる恐れがある南アフリカ変異株が相次いで見つかり、絶望の暗雲が広がり始めている。ジョンソン英政権は南ア変異株を虱潰しにするため、国内8地域でローラー検査作戦を開始した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、TikTok禁止延期の大統領令署名

ビジネス

英中銀、金融規制緩和による経済成長促進で政府と協議

ワールド

トランプ氏、不法移民の流入阻止で大統領令に署名 国

ワールド

トランプ氏、プーチン氏と会談意向 ウクライナ戦争終
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブーイングと擁護の声...「PR目的」「キャサリン妃なら非難されない」
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story