コラム

ワクチンが灯した「希望」を「絶望」に変えた南ア変異株 イギリスはローラー検査でシラミ潰し作戦を開始

2021年02月03日(水)09時47分

マット・ハンコック英保健相は1日の記者会見で「南ア変異株がより深刻だという証拠はないが、必死に追い詰めなければならない」と表情を変えた。これまで英国内で南ア変異株は105例見つかり、このうち11例が南ア渡航者とのつながりが全くない市中感染だった。

南ア変異株は英変異株と同様、感染力が強い上、現在のワクチンを回避することが臨床試験や研究室の実験で確認されている。見つかったリンク切れの感染者は11例だが、実際の感染者はその20倍に達する。このため11例が見つかった8地域計35万人を対象に2週間以内に戸別検査を実施する。

ロンドン周辺のNHS病院関係者は「該当する地域で暮らす医療従事者の出勤は停止され、自宅での唾液検査で陰性が出たら、病院で改めて精度が高いPCR検査を受け直すようになった。救急搬送されてきたコロナ患者が2~3日で亡くなるケースが目立つ。死者の中には50代の人もいる」と打ち明ける。

病院はコロナ患者であふれ返り、今年に入って看護師が3人立て続けに亡くなった。この関係者は「ワクチンの集団予防接種で先行するイスラエルで60歳以上の接種者の陽性率がわずか0.07%に落ちたことが一筋の光明だが、目の前でその希望をかき消す南ア変異株が広がっている」と表情を曇らせた。

感染者383万人、死者10万6500人を突破し、欧州最大の被害を出したイギリス。昨年4月には1日人口1千人当たり0.26件(日本は同0.02件)の検査能力しかなかった。ドイツは同0.68件と高かったため、イギリスは検査能力を拡大。現在は同9.06件と日本(同0.52件)の17.4倍の検査能力を有する。

イギリスは陽性例のうち5~10%のゲノムを無作為に調べており、昨年12月、感染力が強い英変異株がロンドンなどで爆発的に広がっていることを確認。今度はその英変異株のうち11例が南ア変異株と同じ突然変異を起こしていることを突き止めた。

リバプールでも南ア変異株と同じ突然変異を持つ32例を見つけた。コロナの突然変異は底知れない不気味さを広げている。

英レスター大学のジュリアン・タン名誉准教授(臨床ウイルス学)はこう語る。「都市封鎖を含めた社会的距離政策をより厳密に守らなければ、ウイルスが広がり続けるだけでなく、進化する恐れすらある。イギリスの地域社会が複数の異なる変異種のるつぼになるかもしれない」

ナオミさんは東日本大震災が起きた2011年当時も、肝機能不全で白血球が減少し、体調を崩していた。震災で自宅が全壊した被災者から「音楽で被災者を救って」とメッセージが寄せられ、一緒に歌詞を書いた。それがきっかけになり被災地やロンドンでチャリティー・コンサートを100回以上開いた。

今年、あの震災から10年になる。ナオミさんは3月11日、夏木マリさん、小柳ゆきさん、矢井田瞳さんらと音楽の配信イベントを行う。メッセージは「私たちは忘れない(We will never forget you)」。ナオミさんは「私自身、被災地と関わることで生かしてもらった。絶望ではなく、希望を伝えたい」と意気込む。

希望の鐘が鳴り響く日が再び世界に訪れることを信じて。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フィッチ、インドネシア格付け見通し引き下げ 「ネガ

ワールド

中国政協開幕、軍トップ張氏ら政治局員2人が姿見せず

ビジネス

インタビュー:原子力事業の売上高、来年度に4000

ワールド

アングル:米とイスラエル、イラン攻撃で目標にずれ 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story