コラム

ワクチン接種「24時間態勢」で集団免疫獲得に突き進むイギリスの大逆転はなるか【コロナ緊急連載】

2021年01月16日(土)13時25分

イギリスはウイルスの突然変異を探知するため、ランダムに抽出した1割の検体のゲノム情報を即時に分析するシステムを構築し、感染力の強い変異株の早期発見に成功した。世界全体のコロナゲノム情報の半分以上は実にイギリスから報告されている。

オックスフォードワクチンの緊急使用も世界で初めて承認。インターロイキン-6(IL-6)阻害剤として大阪大学と中外製薬により共同開発された「アクテムラ(トシリズマブ)」も世界で初めてコロナ治療薬として承認した。科学のプロセスに政治は一切、介在していない。

アビガンの過熱ぶりは一体何を物語るのか

コロナ治療薬としてイギリスのランダム化比較試験で薬効が確認されたのはデキサメタゾンとアクテムラだけだ。筆者はG-Searchデータベースサービスを使って「安倍」「首相」と、抗インフルエンザウイルス剤アビガンや抗ウイルス薬レムデシビルの名前を入力して何件の記事がヒットするか調べてみた。

その結果は以下の通りだ。

(1)アビガン 1179件

(2)レムデシビル 394件

(3)デキサメタゾン 29件

(4)アクテムラ 24件

この数字は一体、何を意味しているのだろう。安倍晋三首相(当時)が昨年5月、同月中の承認を目指す意向を強調したアビガンは、退陣後の昨年12月、厚生労働省の専門部会で「現時点で得られたデータから薬の有効性を明確に判断することは困難」として承認は見送られた。

傘下子会社がアビガンを開発した富士フイルムホールディングスの古森重隆会長は安倍前首相のゴルフ仲間。昨年5月にコロナ治療薬としていち早く特例承認されたレムデシビルは世界保健機関(WHO)から「これまでに得られた知見からは重要なアウトカムを改善するエビデンスがない」と非推奨にされた。

安倍前首相は「フサン、アクテムラ、イベルメクチン。いずれも日本が見いだした薬だ」とアクテムラに言及したこともあるが、アビガンに対する力の入れようは尋常ではなかった。マスコミもそれに踊らされた。

第二次世界大戦の緒戦で連戦連勝した旧日本軍は精神論を振りかざし、科学や統計を無視して祖国を破滅させた。そしてコロナ危機でも科学は軽視され、政治に翻弄されている。歴史は科学を信じる者が最後に勝利することをわれわれに教えてくれるのだが、日本は再び先の大戦の過ちを繰り返してしまうのだろうか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NEC、通期業績予想を上方修正 国内IT好調で

ビジネス

米財務長官の発信にコメント控える、日銀会合も踏まえ

ワールド

アングル:米国株、人気は株主還元よりAI技術革新投

ワールド

習国家主席がトランプ米大統領と釜山で30日会談、中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 5
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 9
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story