コラム

英国の危険な賭け 再生産数を頼りに封鎖解除の見切り発車 ジョンソン首相の大罪

2020年05月11日(月)12時15分

カメラを通じて国民にイギリスの出口戦略を説明するジョンソン首相(ロンドンの首相官邸、5月10日) Andrew Parsons/REUTERS

[ロンドン発]新型コロナウイルスに感染し、一時は死線をさまよったボリス・ジョンソン英首相が10日夕、国民向けにTV演説し、段階的な出口戦略を発表した。自宅勤務できない建設業や製造業の労働者はバス・地下鉄など公共交通機関を避け職場に復帰するよう呼びかけた。

「コロナ患者の死亡率が低下し、入院が低下しているのはあなたたちの努力と犠牲の賜物」とジョンソン首相は1カ月半に及ぶ都市封鎖への国民の協力を労った。13日から屋外での運動を1日1回に限定せず、無制限に広げるという。

英国の出口戦略

kimura20200511104601.png

実効再生産数(ある時点において感染者1人がうつす2次感染者数の平均値)に基づいて警戒レベルを5つに分け、早ければ6月1日までに店や小学校を再開、状況がさらに改善すれば7月1日以降にレストラン、カフェ、公共スペースを再開したいというロードマップを描いた。

【レベル5】
実効再生産数が1超。医療が逼迫。都市封鎖。臨時病のNHS(国民医療サービス)ナイチンゲール病院(4000床)を再開

【レベル4】
現状。一部地域で実効再生産数が1超。都市封鎖

【レベル3】
実効再生産数が1未満。都市封鎖の一部解除

【レベル2】
社会的距離を保ちながら店や事務所は再開。ハイリスクグループの高齢者や基礎疾患のある人は外出禁止

【レベル1】
ワクチン接種できるようになった場合に限定。スポーツイベント再開。ハイリスクグループも外出許可

都市封鎖中に恋人の既婚女性と密会し、英政府の非常時科学諮問委員会(SAGE)を引責辞任した感染症数理モデルの世界的権威、インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授は6月までの封鎖継続を唱え、緩和すれば死者は10万人に膨らむと警告していた。

都市封鎖の継続か、経済の再開かを巡り、政治と科学が激しく対立。国内も閣内も真っ二つに割れている。コロナに感染したマット・ハンコック保健相は封鎖解除に慎重で、ジョンソン首相は経済を優先する強硬派に突き上げられ、板挟みになっていると報じられている。

しかし予想以上に解除に舵を切ったTV演説で驚いた。職場に復帰するよう促された労働者も雇用主が混乱したのは想像に難くない。英国は当初、免疫のできた人が「壁」になって感染を防ぐ集団免疫の獲得を目指していたが、この基本方針はどうやら変わっていなかったようだ。

世論調査会社オピニウムの調査では学校再開を検討する条件は整ったと答えた人は17%、まだ整っていないとの回答は67%を占めた。再開は時期尚早と答えたのはレストランが78%、パブ(大衆酒場)が81%、大規模集会が84%。封鎖継続の世論が大半だった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

「平和評議会」設立式典、ガザ超えた関与をトランプ氏

ワールド

中国、トランプ氏の風力発電批判に反論 グリーン化推

ビジネス

英ビーズリー、チューリッヒ保険の買収提案拒否 「著

ワールド

NATO、北極圏の防衛強化へ トランプ氏との合意受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている「とてつもなく巨大な」生物...その正体は?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 4
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 8
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 9
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 10
    ノーベル賞に選ばれなかったからグリーンランドを奪…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 9
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 10
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story