コラム

「コロナ後」メルケルはどう動く EUは更なる分裂を回避できるか

2020年05月25日(月)12時20分

木村:ドイツで起きているコロナ市民デモについてお聞かせ下さい。デモ参加者は何を求めているのでしょう。政治への影響をどう判断されますか。反ワクチン運動についてどう見ておられますか。

岩間:人数にすれば、せいぜい数百人から千人程度ですから、ドイツの政治的デモとしては、それほど大きなものではありません。しかし、政府による様々な制限を、憲法で保障された人権や自由への侵害と考える人は、ドイツにも少数ながらいます。その人々と、ワクチン反対運動の人々が混ざっているようです。

ドイツ人の左派には、ある種の自然回帰主義があり、菜食主義の人も多いですし、近代医学への不信感を持っています。具体的には抗生物質やワクチンに強い猜疑心を抱いています。確かにどちらも間違った使い方をすれば、様々な副作用があるのですが、全く否定するのは近代医学以前の死亡率に戻ることになってしまいます。

ワクチン完成前から反対運動

けれど、これらの人々には、独自の自然医学のようなものを信奉している人が多く、人間が生まれながら持っている免疫力・治癒力で病気を治すのが最も自然であり、人為的に抗生物質やワクチンを使うと、身体の回復力を弱めてしてしまう、と信じており、子供に全く予防接種を受けさせない親もいます。

ある程度の科学的思考があるグループから、ある種の陰謀主義と結びついているものまで様々ですが、かなり以前からドイツにある考えです。

私も、風邪をひいて高熱が出た時に、抗生物質を処方されて飲んだら、あるドイツの知人にこっぴどく叱られたことがあります。腸内の善玉菌を殺してしまうから、今すぐ対策をしなければいけないと、乳酸菌やらいろいろ飲まされました。

そのような信条の人々が、今回政府がかなりの強権的措置に出ているため、無理矢理コロナウイルスのワクチン接種をされるのではないかと恐れて、まだワクチンも開発されていないのに、反対運動を開始しています。

しかし、最初に言ったように人数的にはそれほど大きな勢力ではないので、政治への影響は恐れるほどにはならないと思います。ただ、ドイツの学校では麻疹(はしか)の予防接種を受けていない子が多く、麻疹が流行するようなことがありました。

コロナのワクチンを余り多くの人が拒否するようであれば、集団として免疫力が弱くなってしまうという問題が起こるかもしれません。特に、学校や老人ホーム、医療施設などが問題だと思います。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ビジネス

米マスターカード、1─3月期増収確保 トランプ関税

ワールド

イラン産石油購入者に「二次的制裁」、トランプ氏が警

ワールド

トランプ氏、2日に26年度予算公表=報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story