コラム

「コロナ後」メルケルはどう動く EUは更なる分裂を回避できるか

2020年05月25日(月)12時20分

コロナ対応で人気上昇中。ポスト・メルケルもメルケルか?(5月20日、ベルリン) Odd Andersen/REUTERS

[ロンドン発]新型コロナウイルスの巨大津波に襲われた欧州には死体の山が築かれ、今後、第二次世界大戦を上回るかもしれない経済的ショックに備える必要がある。「ポスト・コロナ」の欧州はやはり危機に強いドイツのアンゲラ・メルケル首相にかかっている。しかし彼女の心中を見通すのは至難の業だ。そこでドイツウォッチャーとして定評のある岩間陽子政策研究大学院大学教授(国際政治、欧州安全保障)に話を聞いた。

木村:ドイツでメルケル人気が急浮上している理由は。「ポスト・メルケル」もやはりメルケルなのでしょうか。

岩間:コロナ危機が始まって以来の国民とのコミュニケーションが、非常にうまく行っています。テレビ演説も記者会見も、論理的で的確であり、かつ心に訴える内容になっています。危機対応も迅速であったことから、評価が急上昇しています。

大げさな言葉を振り回すのではなく、分かっていることと分かっていないこと、今できることとできないことを、正直に話し対策を説明したことで、まず好感度が上がったのだと思います。さらに、私は彼女にはある種の宗教性に裏打ちされた強い倫理観(筆者注:メルケルの父親はルター派の牧師)があると以前から思っているのですが、それが今回はプラスに働きました。

彼女の倫理観は、難民危機の際にも感じました。人道主義の立場からは、彼女の言っていることはどこまでも正しかったのですが、政策的には無理がありました。しかし、今回のコロナ危機では、命を救うために自制と規律を求める彼女の言葉は、ドイツ国民の心に響きました。

素早かった財政出動

危機においてはコミュニケーションと情報開示が重要とよく言われますが、それが非常にうまく行きました。記者会見においても、必要に応じて専門家(ロバルト・コッホ研究所所長)や、担当大臣との意思疎通をきちんとした上で一緒に会見に臨んでおり、首相のリーダーシップが政権内で貫徹されている印象を与えました。

南欧諸国のような医療崩壊が全く起こらなかったことも、ドイツ人のナショナリズムにポジティブに働きました。もちろん病院の病床数は直接メルケルの手柄ではないですが、医療がちゃんと機能していることが、ドイツ人に安心感を与えたことは間違いありません。

今まで緊縮財政派だったメルケルですが、コロナ危機に際しては、財政均衡原則を一時的に棚上げすることにすぐに踏み切りました。昨年後半以来、ドイツ経済の減速傾向は報じられていたのですが、その際には動かなかったメルケルですが、今回は非常に速い段階で財政措置に踏み切り、最近ではルフトハンザ救済案もまとめるなど、経済対策もしっかりやっているという印象を与えています。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

レバノン死者300人近くに、イスラエルは「壊滅的な

ワールド

ロシアがドローン・ミサイル攻撃、ハルキウで少なくと

ワールド

トランプ氏、イランとの交渉「関心ない」 全指導者排

ワールド

アングル:ベトナム、新興国格上げ目前に海外資金流出
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 6
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 7
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 8
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story