アングル:ベトナム、新興国格上げ目前に海外資金流出 特定銘柄への集中と外資規制が障壁
ハノイ証券取引所。2025年4月撮影。REUTERS/Athit Perawongmetha
Gregor Stuart Hunter Francesco Guarascio
[シンガポール/ハノイ 6日 ロイター] - ベトナムは新興国市場の仲間入りを目前にしており、株価は数年ぶりの大幅上昇を記録している。だが海外の投資家は関税リスク、外国人の株式保有制限、さらに指数における特定銘柄への過度な偏りが投資の障害になっているとして売りに回っている。
株式指数算出会社のFTSEラッセルは昨年10月、ベトナムを2026年9月21日付けで「フロンティア市場」から「新興国市場」に格上げすると発表した。株価の押し上げ効果が期待される一方で、実際には小規模市場への資金シフトが進んでおり、東南アジア随一の成長を誇るベトナムへの資本流入にブレーキがかかる可能性がある。
格上げについては、国際的な株式ブローカーを通じた売買の利便性が十分に向上したかどうかを確認するため、3月か4月に中間審査が実施される見通しだ。
別の算出会社であるMSCIもベトナムを格上げ候補リストに追加すれば、さらなる追い風となる可能性がある。JPモルガンによれば、定期見直しが行われリストが発表される6月にも起こり得るという。ただし、実際に格上げが実現するのは30年以降になる見込みだ。
8%の経済成長を背景に、ベトナムの主要株価指数であるVN指数は昨年41%高と、この8年間で最大の上昇率を記録した。海外資本の流入はベトナム企業の株価を押し上げ、資金調達コストを下げ、経済成長と通貨ドンを支える可能性がある。
だが、外国人投資家は他市場へのシフトを強めている。中国からの代替拠点として恩恵を受けるベトナムの成長は、米国の通商政策次第で揺らぎかねないというリスクに直面している。さらに、指数をけん引しているのが実質的に、不動産開発から自動車製造まで手掛ける複合企業のビングループ1社に依存しているというゆがみも、投資家の警戒感を誘っている。
「トランプ政権の発足を控え、海外投資家は関税リスクを警戒してベトナム投資に慎重になっていた」。米サンフランシスコに拠点を置く資産運用会社マシューズ・アジアのショーン・テイラー最高投資責任者(CIO)はそう振り返る。「我々としては、新興国指数を構成する台湾、韓国、中国などの、より流動性や透明性の高い市場の方が投資妙味があると感じていた」
LSEGのデータによると、ベトナム市場における25年の株式純流出額は過去最高の51億ドル(約8000億円)に達した。政府の数字によれば、この傾向は1、2月も継続。3320億ドル規模の同国市場において、外国人の持ち株比率は発行済み株式の約14.5%にとどまっている。
ロンドンに上場するクローズドエンド型ファンド、ベトナム・エンタープライズ・インベストメンツでも資金引き揚げの動きが加速している。ベトナムの投資会社ドラゴン・キャピタルの旗艦ファンドだが、資産の一部を現金化するため同社が提示した公開買い付け案に、株主の3分の2以上が賛成した。
ゲイツ財団の信託基金や著名投資家ボアズ・ワインスタインらが出資する同ファンドだが、その株価は長らく、保有資産の価値を下回る割安な水準で放置されてきた。これはベトナム市場の流動性の低さを示している。
同国の市場規制当局はロイターに対し「世界最大級のグローバル投資機関数社が、ベトナムへの投資を積極的に準備している」と述べたが、具体的な社名は明らかにしなかった。
<特定銘柄の影響力が突出>
通貨ドンの交換制限や市場参入の壁、さらには外資の出資制限といった障壁が、長年ベトナム市場への投資意欲を削いできた。そこへ昨年の株価急騰が重なったことで、市場の偏りは一段と深刻なものとなっている。
VN指数は銀行と不動産開発業者の比率が高く、昨年736%上昇したビングループという単一銘柄による影響がますます大きくなっている。同社はベトナムで最も時価総額の大きい企業であり、子会社と合わせると指数の20%以上を占める。
「分散投資や流動性を重視する海外ファンドにとって、これでは特定銘柄にリスクが集中しすぎてしまい、追加投資は困難だ」――ハワイを拠点とするシンクタンク、パシフィック・フォーラムのトラン・ティ・モン・トゥエン研究員はそう語った。
ビングループは1993年、ウクライナで即席麺を販売して財を成した実業家ファム・ニャット・ブオン氏が創業した。不動産から鉄道、鉄鋼、エネルギー、娯楽、宇宙産業まで網羅する複合企業へと拡大を遂げた。
最近の株価下落にもかかわらず、現在では時価総額が500億ドル近くに上る巨大企業となっている。グループの株価は昨年、政府の支援と、与党共産党政権による国内民間企業への優遇政策で、市場全体を押し上げた。
ベトナムのファンド、ビナキャピタルの副代表トゥ・グエン氏は「少数の関連銘柄が指数の過半を占め、市場の動きに突出した影響力を行使している」と指摘した。
赤字の電気自動車(EV)メーカー、ビンファストを23年に米ナスダックへ上場させたビングループは、昨年の株価上昇について、政府の支援策と傘下企業の業績を反映したものだと述べた。
同社の純利益は昨年2倍に増えたが、株価も急騰したため、現在の株価収益率(PER)は96倍という非常に高い水準で取引されている。
現状のバリュエーション(株価水準)について、ロンドン上場のベトナム株ファンドを運用するダイナム・キャピタル(シンガポール)のクレイグ・マーティン会長は慎重な見方を示している。
「(ビングループが)手掛ける数多くのプロジェクトからいつキャッシュフローが得られるのかは、依然として不透明な部分が多い。我々のように、企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)を重視する投資家にとって、現状の(割高な)株価水準は到底納得できるものではない」
ロイターが取材した8社のブローカーや運用責任者は、ビングループ株の購入を顧客に推奨していないと答えるか、批判的な発言による報復を恐れてコメントを控えた。
ベトナムが資金調達や取引の規制を緩和し、アクセスを容易にすることで市場変革に向けて前進しているのは確かだ。
もっとも、海外投資家が一律に弱気というわけではない。他国で上場しながらベトナムで事業を展開している企業の株式を買っている投資家もいる。
とはいえ外資の出資制限があるため、海外投資家がベトナム株を買おうとすると、20―30%のプレミアムを支払わなければならない。そうしたコストを考慮すれば、現時点で慌てて買いに走るほどの価値があると考える向きはほとんどいない。
調査会社モーニングスターのハンター・ボードワン氏は「多くの運用担当者が、ベトナム株のポテンシャルは高いと口を揃える。だが、流動性が伴っていない」と述べた。「外資の出資制限が足かせとなっているのが実情だ」
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