コラム

オーストリアで「世界最年少」首相誕生へ 31歳が唱えるニューポリティックス

2017年10月16日(月)13時00分

静かに勝利宣言するクルツ外相(筆者撮影)

[ウィーン発]「信頼してくれて感謝します。これは他者に対する勝利ではなく、変革するチャンスなのです」――若き変革者は謙虚に静かな雄叫びを上げた。

欧州の交差点、欧州連合(EU)の「へそ」に当たるオーストリアで国民議会(下院、183議席)選挙が15日行われ、セバスティアン・クルツ外相(31)に率いられた中道右派・国民党が15年ぶりに議会第1党の座を奪還した。

クルツは戦後長らくオーストリア政治を支配してきた中道左派・社会民主党と国民党の「馴れ合い政治」との決別を唱え、既存政治に飽き飽きした若者の支持を集めた。反移民・反難民を声高に唱える極右・自由党との連立を模索するとみられる。

極右政党が連立入りすればEUの反発も予想される。2000年、自由党は国民党との連立政権に参加、オーストリアは国際社会から「極右の政権参加は認められない」と激しく非難された経緯がある。

クルツ外相が首相に就任すれば「世界最年少」(米ブルームバーグ)、「EUで最年少」(EUオブザーバー)の政治指導者の誕生となる。

15年の欧州難民危機で人口の1%超に相当する9万人が流入した移民・難民対策が最大の争点。難民流入ルートを遮断、難民手当の引き下げなど、規制強化に舵を切った国民党が31.6%(62議席)、クリスティアン・ケルン首相の社会民主党は26.9%(52議席)、自由党が26%(51議席)。

移民・難民の規制強化を訴える国民党と自由党の右派は前回より計26議席も増やした。一方、難民の寛大政策を唱えた緑の党は昨年、親EU派の元党首が自由党候補を退けて大統領になったにもかかわらず8.6ポイントも得票率を落とし、議席を獲得できる最低ラインの4%をクリアできなかった。

政治の右傾化か、それとも新しい政治の幕開けか。14、15の両日、アルプス山脈を望む小さな街シュタイナッハから首都ウィーンまで渦中のクルツを追いかけた。シュタイナッハでは伝統衣装を着た支持者が熱狂的にクルツを出迎えた。

kimura171016-aus02.jpg

ガールフレンドと投票にやって来たクルツ(筆者撮影)

15日午前、クルツがガールフレンドと一緒にウィーンの投票所に姿を現すとカメラマンが雪崩を打って追いかけ、一時、収拾がつかなくなった。クルツの演説やコメントは本当に短い。握手や自撮り、サインが中心で、どこに行ってもすごい人気と熱気だ。

候補者が有権者一人ひとりの質問に丁寧に答えるイギリスの総選挙と比べると、握手した人の数で当落が決まると言われる日本の総選挙に似ている。これもクルツ流のニューポリティックスか。

クルツの国民党に投票した主婦イングリッド・ルンガルディアさん(58)は「クルツは投票したこの小学校で学んだのよ。両親もこの近くに住んでいる。この地域はトルコやムスリムの移民が多く、クルツはどこに問題があるか、解決方法も知っている」と話した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ビジネス

米8月製造業生産0.2%上昇、予想上回る 自動車・

ワールド

EU、新たな対ロ制裁提示延期へ トランプ政権要求に

ワールド

トランプ氏、「TikTok米事業に大型買い手」 詳
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 8
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story