コラム

パナマ文書で注目を浴びるオフショア市場、利用するのは悪くない?

2016年04月14日(木)17時00分

バカンスがてらオフショアで運用……ではなく、EU本部前でタックスヘイブンの不透明性に抗議する2人 YVES HERMAN-REUTERS

 オフショアファンドやオフショア生命保険を利用することは本当にいけないことなのか。オフショアで年金基金を運用することも許されないのか――。世界の政治指導者やその家族、友人による不透明な資産運用を明るみに出した「パナマ文書」の衝撃が広がっている。パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から漏れだした1150万文書はデータ量にして2.6テラバイト。同事務所が過去40年近くにわたって扱った21万社分の極秘資料だ。

【参考記事】世紀のリーク「パナマ文書」が暴く権力者の資産運用、そして犯罪

 今回、使われていたタックスヘイブン(租税回避地)はカリブ海に浮かぶ英領バージン諸島が断トツに多く、次いで中南米パナマ、インド洋のセーシェルなど、21の国・地域にのぼっている。発端は約1年前、ドイツの南ドイツ新聞に届いた「興味があるのなら情報を提供する」という1通のメッセージだった。約80カ国100社以上のメディアから参加した記者約400人が総力で取材に当たったパナマ文書にはアルゼンチンの大統領やアイスランドの首相(辞任)ら政治指導者22人の名前が含まれ、捜査の手も動き始めた。

キャメロン、散々な1週間

 タックスヘイブンの透明性を高めようと国際社会で旗を振ってきた英国の首相キャメロンの場合、2010年に亡くなった父親がパナマで投資ファンドを設立していたことが問題になった。当初、キャメロンは「プライベートな問題」と取り合わなかったが、逆に「何かを隠している」というやましい印象を増幅させてしまった。首相に就任する4カ月前に投資ファンドの持ち分を約3万ポンドで売却し、11年には母親から20万ポンドの生前贈与を受けていたことを公表せざるを得なくなった。過去5年間の所得と納税額も英国の首相として初めて公開した。しかし対応は後手に回り、大手YouGovの世論調査で野党・労働党党首コービンに初めて逆転を許すなど「散々な1週間」(キャメロン)となった。英首相キャメロンの所得公開.png
公認会計士事務所RNSのデータをもとに筆者作成

 キャメロンの亡父と首相自身が行っていたことは法的に何の問題もなかったが、有権者から疑いの目を向けられた。タックスヘイブンも含めたオフショアとは「海外」「沖の」という意味で、バージン諸島やセーシェルはまさにその通りなのだが、「オンショア(陸の上)」であってもパナマのように会社設立が簡単で、税制が緩く、秘匿性が極めて高いため、オフショアに分類される国もある。どうしてこうしたオフショアが発展してきたかというと、冷戦の終結と東西の壁崩壊によってグローバル化が急速に進んだことと密接に関係している。巨額の資金が世界中を駆け巡るようになり、金融機関やヘッジファンドがオフショアの金融センターをグローバル化の歯車として使い始めたからだ。

【参考記事】世界最悪のタックスヘイブンはアメリカにある

 私はロンドンで生活するようになって9年近くになるが、英国と日本での税務申告、銀行の送金手続きがもっと簡単であれば良いのにとため息をつくことが一度や二度ではない。原稿料をいただく日本の出版社ごとに英国の税務当局に居住者証明を申請しなければならない上、証明書が届くのに下手をすると2カ月ぐらいかかる。日本の出版社に郵送できる頃には「源泉徴収の手続き済み」と通告されるケースもある。英国の税務調査に備えて日本の源泉徴収票をそろえておくのも大変だ。こうした国家間の煩雑な手続きは、間違いなく個人レベルのグローバル化の大きな妨げになっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米コノコフィリップス、カナダで11月に人員削減=社

ビジネス

売り上げ低迷の米ターゲット、従業員1800人削減へ

ワールド

米、対中通商合意の順守状況を調査へ 追加関税の可能

ビジネス

カナダ、米国製ステランティス・GM車の関税免除を制
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story