コラム

「EUから出ると、お化けが出るぞ」と脅され、腰が引け始めた英国

2016年04月28日(木)16時30分

「もしEUから離脱したらイギリスとの貿易交渉は後回しだ」と残留を促したオバマ米大統領 Andy Rain- REUTERS

 欧州連合(EU)に残留するか、離脱するかを有権者に直接問う英国の国民投票が6月23日に迫ってきた。最近6回の世論調査の平均値を見ると、残留派が54%で、離脱派の46%を8ポイント、リードしている。「親友」の米大統領オバマらによる警告がようやく英国の有権者にも効き始めた感じだ。日本で言えば公明党型の地上戦、いわゆるローラー作戦(英国では戸別訪問が認められている)を各政党が展開する総選挙と違って、EU国民投票のキャンペーンはPR中心の空中戦だ。風が吹けば状況が一変する怖さがあるので、投票日当日まで予断を許さない。

yon.jpg

 英国が置かれている状況は、ちょうど会社(EU)の中核社員(英国)ががんじがらめの社風に嫌気が差し、会社を辞めたいと言い出したのに似ている。次から次へと同僚がやって来て、「お前はこれまで会社のために頑張ってきた」「お前がいなかったら会社はこれほど成長していなかった」と持ち上げてくれる。取引先の社長まで「会社にはお前が必要だ」となだめてくれる。

【参考記事】イギリス離脱を止められるか、EU「譲歩」案の中身

「でも、もう我慢の限界だ。辞めたい」と漏らすと、あれだけ温かい表情を浮かべていた同僚たちが一転、「会社をやめたら、お前なんか再就職できるものか」「これまで会社の経費で飲み食いしていた分を返せ」と怒りだし、取引先の社長も「もう特別扱いはしない」と突き放す。自分で会社を辞めてからの収入を計算し直すと、今の給与よりかなり下がってしまう。女房や子供が「お父さん、考え直して」と騒ぎ出したといった感じだろう。

oecd.jpg
イギリスのEU離脱に警鐘を鳴らすOECDのグリア事務総長 Masato Kimura

 経済協力開発機構(OECD)事務総長アンヘル・グリアは4月27日、英大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で講演し、「2020年までに国内総生産(GDP)は3%少なくなる。1世帯当たり年2200ポンド(35万6400円)の減収になる」「2030年までには年3200ポンド(51万8400円)、最悪シナリオでは5千ポンド(81万円)を失う」という新しい調査結果を発表した。ちょうどこの日、今年1~3月の英国の成長率が前期の0.6%から0.4%に減速したと英国家統計局(ONS)が発表したことを受け、グリアは「EU離脱という『税金』を英国はすでに支払い始めている」と警鐘を鳴らした。
effects.jpg

 この手の調査はOECDが初めてではない。

 2月12日、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスは、EU離脱後はノルウェーと同じように欧州経済領域 (EEA)に加盟して単一市場に参加できるのが最善シナリオだが、現在、英国がEUに支払っている金額の83%を負担する必要が出てくると試算。しかもEUが決めた規制に従わなければならないと指摘した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中

ビジネス

円高につながる金融政策、「一つの選択肢」=赤沢経産
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 2
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦によって中国が「最大の勝者」となる理由
  • 3
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 4
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 10
    革命国家イラン、世襲への転落が招く「静かな崩壊」
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story